研究課題
本研究は、イネ種子を構成する胚と胚乳において、それぞれのサイズを規定する胚周辺胚乳領域の構築過程を3つのphase(確立、維持、領域規定)にわけ、胚ー胚乳サイズに重要な鍵因子であるREDUCED EMBRYO1(RE1)、RE2、GIANT EMBRYO(GE)、GOLIATH(GO)遺伝子の機能解析や新奇因子の同定を通じて、それぞれのphaseにおける分子発生学的基盤を明らかにすることを目的とする。本年度は、維持phaseに関わる新奇変異体re3変異体の原因遺伝子特定するため、次世代シークエンサーを用いて多型情報を獲得し、それらの解析からRE3候補遺伝子を特定した。また、re1、re2、ge変異体とre3変異体との二重変異体を作製し、それらの遺伝学的関係について明らかにした。領域phaseに関わるge変異を抑圧する変異体の原因遺伝子の同定を行い、新奇転写因子をコードしていることが明らかとなった。また、遺伝解析、発現・機能解析などからこの遺伝子がGEやGO遺伝子を介した胚乳細胞死に関するシグナル伝達を負に制御する因子であることが明らかとなった。また、メタボローム解析からGEやGOが影響を及ぼす代謝経路について推定を行った。
2: おおむね順調に進展している
3つのphaseに関与する遺伝子の機能解析については、研究計画に示した解析の大部分を実施し、それらについての結果が得られている。以下の2点については、明瞭な結果が得られなかった。1つは、維持phaseに異常を示すre4変異体の原因遺伝子の同定を目指した実験では、戻し交配やマッピング集団作製過程において、遺伝率が低くなることが観察されことから、原因遺伝子の特定に至らなかった。今後、re4変異の遺伝様式や環境要因、品種間差も視野に入れて解析を行っていく必要がある。2つ目として、維持phaseに関与するRE1、RE2遺伝子のdirect targetを同定を目指した実験では、カルスを用いてデキサメタゾン(DEX)によりRE1もしくはRE2を発現誘導する実験を行った。既に得られていたイネの子房においてRE1、RE2によって調節されているdirect target候補遺伝子について、DEX処理後2~6時間での変化を経時的に観察したが有意に発現誘導される遺伝子を見つけることはできなかった。今後は、異なる実験手法を用いてdirect targetを探索する必要がある。
平成27年度に単離したre3変異体の候補原因遺伝子の相補性試験やCRISPR-cas9法による遺伝子破壊による確認作業および発現・機能解析を実施する。
研究計画に予定していたre3変異体の原因遺伝子同定のために行う実験において、当初2016年度春から夏に予定していたサンプル回収が植物体の生育異常により困難となった。そのため、温室で植物体の育成を再度行い、サンプル回収を行った。これにより、遺伝子同定のための実験が2016年度12月となる遅れが生じ、その後に原因遺伝子の特定作業や発現・機能解析に必要となる物品の購入などを見送ったため。
RE3の原因遺伝子の特定作業ならびに発現・機能解析を行うために必要な物品の購入等、研究計画に示した実験内容を踏まえて適切に使用して予定である。
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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