研究課題/領域番号 |
25712006
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
下田 宜司 独立行政法人農業生物資源研究所, 植物共生機構研究ユニット, 主任研究員 (80415455)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 根粒菌 / マメ科植物 / 窒素固定 / エフェクタータンパク |
研究実績の概要 |
平成26年度は、前年度に引き続きマメ科共生変異体の窒素固定不全表現型を抑圧する根粒菌変異株のスクリーニングを実施し、TypeV分泌装置(TONO-AT)の変異アリルを新たに3つ同定した。またTONO-ATの機能領域を明らかにするため、様々な領域を欠損したコンストラクトを作成し、TONO-AT変異株に対して相補試験を行った。その結果、グリシンリッチリピートを含むTONO-ATの全長が窒素固定不全を誘導する活性に必要であることが分かった。様々なグラム陰性菌に存在するTONO-ATのオルソログにも同様のグリシンリッチリピートが長い領域に渡って保存されていることからも、全長の必要性が支持された。さらにTONO-ATの植物細胞での局在を解析した結果、細胞表層での局在が見られた。 宿主因子の機能解析については、活性中心に変異を導入することにより酵素活性の必要性を明らかにするとともに、TONO-ATを基質としてin vitroの活性を明らかにすることができた。昨年度明らかにできなかった宿主因子とTONO-ATの直接的な相互作用については、Yeast two-hybrid解析に用いたコンストラクトを改変することにより確認することができた。 さらに宿主変異体において根粒菌株依存的な窒素固定不全表現型の原因を明らかにするため、異なる根粒菌株を接種した際の遺伝子発現をRNA-seqにより解析し、窒素固定不全表現型を示す宿主変異体と根粒菌株の組わせにおいて特徴的に変化する宿主遺伝子の候補を同定した。本年度、TONO-ATおよび宿主因子の機能性と相互作用について評価できたことは、今後、窒素固定活性に対するTONO-ATの作用点の解明につながる有用な成果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度は、in vitroの酵素活性の評価およびYeast two-hybrid解析によりTONO-ATと宿主因子との相互作用を示すことができたことは大きな進展と言える。現時点でTONO-ATより分泌されるエフェクター領域の特定には至っていないが、N末端領域を宿主の根で発現させることにより細胞表層での局在がみられ、さらに窒素固定不全と思われる不完全な根粒の着生数が増加する傾向を見出すことができた。このことはTONO-ATのエフェクタータンパクの植物内での作用を示す重要な手がかりであると考えられる。 またRNA-seqにより窒素固定不全条件下で特徴的に発現変動を示す宿主遺伝子の候補を選抜できたことは、次年度、窒素固定におけるTONO-ATの作用点を明らかにする糸口となると考えられる。以上のことから、本年度はTONO-ATとSYM104の機能性および相互作用についての情報を得ることができ、さらに次年度の解析につながる遺伝子発現情報を得ることができたため、研究計画全体としてはおおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度はTONO-ATから分泌されるエフェクター領域を特定するため、TONO-ATを過剰発現する根粒菌株の培養上清からエフェクタータンパクの取得を再度試みる。またRNA-seqにより見出した窒素固定不全のマーカーと考えられる遺伝子群について、データベース等を利用して発現パターンを把握するとともに、TONO-ATの過剰発現によりそれらのマーカー遺伝子の発現が誘導されるか否かを解析する。さらにH26年度に得られたTONO-ATと宿主因子との相互作用について再現性を確認するとともに他のタンパク質分泌系(III型分泌系)との機能的な関連ついても解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
分泌タンパクの解析に使用するキットおよび試薬の購入を見込んでいたが、培養上清からエフェクタータンパクを取得することができておらず、解析を次年度に持ち越すため。
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次年度使用額の使用計画 |
H26年度に実施できなかったエフェクタータンパクの精製や同定(質量分析)に必要な試薬類の購入や解析の外注、およびその他の分子生物学解析に必要な試薬の購入に使用する。
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