研究課題/領域番号 |
25712007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸山 潤一 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (00431833)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 麹菌 / 細胞間連絡 / 有性生殖 / 細胞融合 |
研究実績の概要 |
日本の伝統的な醸造産業に用いられてきた麹菌は多細胞生物であり、その菌糸において隣接する細胞は隔壁にあいた小さな穴(隔壁孔)を通じて細胞間連絡を行っている。本研究では、細胞間連絡を制御する分子機構を解明し、麹菌でまだ見つかっていない有性生殖におけるメカニズムとの関連に着目することにより、有性世代を発見することを目的とする。 研究代表者らは前年度までに、栄養要求性の相補を利用して麹菌の細胞融合能を定量的に解析する実験系を確立し、細胞間連絡に関与するものとして同定したMAPキナーゼAoFus3が細胞融合に必須であることを明らかにした。本年度は、AoFus3と相互作用するタンパク質として同定したもののうち、機能未知タンパク質FipCおよび転写因子Ste12のオルソログであるAoSte12の解析を行った。酵母ツーハイブリッド解析と共免疫沈降法により、AoFus3、FipC、AoSte12のいずれの組み合わせにおいてもタンパク質間相互作用が確認された。さらに、fipC、Aoste12それぞれの遺伝子破壊株では細胞融合能が低下するとともに、細胞融合関連遺伝子のmRNAレベルが減少していた。これらのことから、FipC、AoSte12が細胞融合関連遺伝子の転写制御を介して細胞融合を調節することが示唆された。 一方で昨年度、菌核の内部に有性生殖器官の形態的特徴をもつ構造を麹菌で初めて観察した。本年度は、より効率よく有性生殖を誘導するために、麹菌の転写因子遺伝子破壊株ライブラリーをスクリーニングすることで、菌核形成を制御する多数の転写因子を見いだした。現在、これらの転写因子が菌核形成のみを特異的に制御するか、有性生殖にも関与するかどうかの検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者らは前年度までに、麹菌の細胞融合能を解析する実験系を確立したとともに、細胞融合に必要なタンパク質MAPキナーゼAoFus3を同定した。本年度は、AoFus3と相互作用するタンパク質として機能未知のタンパク質FipCを同定し、細胞融合に関与することを明らかにした。糸状菌においてFus3型のMAPキナーゼが細胞融合に必要であることは以前より知られていたが、その作用機序はほとんど明らかになっていなかった。このようなMAPキナーゼとFipCの機能的な関連を見いだしたのは本研究が初めてであり、糸状菌における細胞融合のメカニズムの解明、さらには麹菌の細胞融合能の向上に貢献する可能性がある。 また前年度、麹菌で有性生殖を人為的に誘導することに初めて成功し、有性世代が発見されず不完全菌とされてきた麹菌における画期的な研究成果を得た。本年度は有性生殖器官を内部に形成する菌核に着目した実験を行い、この形成に関わる転写因子を多数同定した。なかには機能未知のものが含まれており、これらの作用機構を解明することによって糸状菌の菌核形成や有性生殖のような分化機構に関する知見が得られることが期待される。 以上のように有性生殖に関連する知見が蓄積することで研究は大きく進展しており、次年度予定している麹菌における有性生殖の効率化に貢献することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画は平成27年度で終了の予定であったが、細胞融合および菌核形成に関与する新規因子を同定したため、平成28年度も本研究課題を継続することにした。細胞融合におけるこれら新規因子の作用メカニズムを解明し、この知見を利用して麹菌における有性生殖の効率化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初想定していなかった新規因子の発見に伴って研究計画を変更する必要が生じ、次年度の研究経費の確保が必要になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は、研究員の雇用、実験で必要となる試薬・器具類の購入に充てることを計画している。
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