研究課題/領域番号 |
25712008
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
保坂 毅 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (50391206)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放線菌 / 二次代謝 / 抗生物質 / 転写 / 翻訳 / リボソーム / RNA ポリメラーゼ |
研究実績の概要 |
当初の研究計画に基づき,以下の3つを重点課題とし,放線菌の転写・翻訳系改変による二次代謝活性化機構を生化学・分子生物学的な面から解析した。加えて,その結果を最大限に活かし,放線菌からの有用生理活性物質の発掘に向けた技術開発への応用研究にも取り組んだ。各課題に対する具体的な研究実績を以下に述べる。 課題1: 薬剤(転写・翻訳系を標的とする抗生物質)耐性変異による放線菌の二次代謝活性化機構の解析。放線菌基準株 Streptomyces coelicolor A3(2) が特定のRNAP 変異やリボソーム変異を有すると,シグマ因子(RNAP ホロ酵素を構成し,プロモーター認識と転写開始に関わる機能を持つタンパク質)の発現プロファルが大きく変化し,このことが二次代謝能の向上に深く関わることを明らかにした。 課題2: 転写・翻訳系を標的とする抗生物質のホルミシスによる放線菌の二次代謝活性化現象の解析。最小生育阻止濃度より低い濃度のリボソーム攻撃性抗生物質存在下で Streptomyces 属放線菌を培養すると,同菌の二次代謝能が大幅に向上することを実験的に証明した。加えて,中でも最も強い作用を示したリンコマイシンによる二次代謝活性化現象の仕組みを放線菌基準株 S. coelicolor A3(2) を用いて解析した。その結果,リンコマイシン存在下で F0F1ATP 合成酵素の発現やネイティブ状態が変化すること,さらには細胞内ヌクレオチドレベルが上昇することを見出し,これらの変化が二次代謝活性化に関わる可能性を見出した。 課題3: 放線菌の潜在的二次代謝能活性化による新しい有用生理活性化合物の探索。課題1 と課題2 の原理を様々な放線菌に活用し,通常の培養では検出に到らない二次代謝産物を検出可能なレベルまで生産量を増加させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1[薬剤(転写・翻訳系を標的とする抗生物質)耐性変異による放線菌の二次代謝活性化機構の解析]は,おおむね順調に進展している。一方,課題2(転写・翻訳系を標的とする抗生物質のホルミシスによる放線菌の二次代謝活性化現象の解析)については,当初の予定以上の達成にあり,放線菌の二次代謝研究に新たな方向性を生み出せる可能性も見えてきた。実際に課題2 に対しての具体的な成果として,学会発表(4件:国内2,海外2)に加え,国際的評価が高い学術誌(Applied and Environmental Microbiology 誌)への原著論文の掲載があげられる。課題3(放線菌の潜在的二次代謝能活性化による新しい有用生理活性物質の探索)は,計画よりも進捗状況が若干遅れ気味ではあるが,最終年度(平成27年度)に本格的に取り組むための基盤を整えることはできている。 以上の理由を総合的に判断し,上述したような自己点検評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
今後も以下3つを重点課題として,当初の計画に基づき,研究を実施する。各課題に対する具体的な推進方策を以下に述べる。 課題1: 薬剤(転写・翻訳系を標的とする抗生物質)耐性変異による放線菌の二次代謝活性化機構の解析。放線菌基準株 Streptomyces coelicolor A3(2) を供試菌株として,RNA ポリメラーゼ(RNAP)変異やリボソーム変異によりシグマ因子の発現プロファイルが変化する仕組みを生化学・分子生物学的な面から詳細に解析し,二次代謝活性化の鍵を握る因子を特定する。その結果を基に,薬剤耐性変異により放線菌の二次代謝能が向上する現象の全容解明を目指す。 課題2: 転写・翻訳系を標的とする抗生物質のホルミシスによる放線菌の二次代謝活性化現象の解析。リンコマイシン(原核生物のリボソーム 50S サブユニットに作用し,翻訳を阻害する抗生物質)存在下で起こる F0F1ATP 合成酵素の発現やネイティブ状態の変化,さらには細胞内ヌクレオチドレベルの上昇といった現象が,Streptomyces 属放線菌の二次代謝能向上にどのように関与しているかを生化学・分子生物学的な面から詳細に解析する。具体的には,RNA シーケンス解析による遺伝子発現変化の網羅的解析を実施し,リンコマイシンによる二次代謝活性化機構の根本原理の解明を目指す。 課題3: 放線菌の潜在的二次代謝能活性化による新しい有用生理活性物質の探索。薬剤耐性変異および抗生物質ホルミシスによる効果を融合させ,放線菌の二次代謝能を最大限に引き出すことに取り組む。このアプローチで新たに生産が認められた二次代謝産物については,迅速に単離・精製・構造解析に着手し,実際に新しい生理活性物質の発見を実現させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,放線菌における二次代謝活性化の仕組みを分子生物学的な面から網羅的に調べるために,トランスクリプトーム解析およびプロテオーム解析を実施する予定であった。しかし,同解析を効率的かつ妥当に行うための試料調製の条件検討に時間がかかってしまい,平成26年度中に実施できなかった。 以上の理由から次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は平成 27 年度請求額と合わせて,放線菌の二次代謝活性化機構の解析に向けたトランスクリプトーム解析(RNA シークエンス解析により実施)およびプロテオーム解析(抗体作製を含む)に係る費用として使用する。
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