研究計画に基づき設定した3つの重点課題に対して、以下の成果を得た。 課題1:転写・翻訳系を標的とする抗生物質耐性変異による放線菌の二次代謝活性化機構の解析。放線菌基準株 Streptomyces coelicolor A3(2) およびその近縁種 S. lividans から取得した抗生物質高生産リファンピシン耐性変異株,ストレプトマイシン耐性変異株、およびエリスロマイシン耐性変異株を用いた生化学・分子生物学的解析から、転写・翻訳系における点変異が、RNAポリメラーゼやリボゾームの機能を変化させるのみならず、DNA 複製やエネルギー物質 ATP 生産の仕組みまでも大きく変えることを新たに見出した。その鍵となる因子の特定は今後の課題であるが、このような細胞機能の複雑な変化が放線菌の二次代謝活性化の根本原理であることが見えてきた。 課題2:転写・翻訳系を標的とする抗生物質ホルミシスによる二次代謝活性化現象の解析。課題1と同様に2種類の Streptomyces 属放線菌を用いて、特に強い二次代謝活性化作用を示すリンコマイシンによる現象を、生化学・分子生物学的な面から詳しく解析した。その結果、それらの抗生物質は、放線菌の生育を完全に阻害しない低濃度では、同菌の物質輸送系や薬剤耐性機構、さらにはリボソームタンパク質など、細胞の維持や増殖に関わる重要な因子の遺伝子の発現を大幅に変化させることを突き止めた。 課題3:放線菌の潜在的二次代謝能活性化による新しい有用生理活性物質の探索。薬剤耐性変異と抗生物質のホルミシス効果を利用することで、Streptomyces 属放線菌のみならず、様々な放線菌の潜在的二次代謝能を引き出すことに成功し、両手法を組み合せることでより効率的に活性化できることも実証できた。本検討で新たに生産させた二次代謝産物の単離・精製、構造解析は現在も検討中であるが、今後、それらから新しい有用二次代謝産物を見つけ出せる可能性は十分に期待できる。
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