研究課題/領域番号 |
25712018
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北守 顕久 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (10551400)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | CLT / 耐震 / 木造建築 / 建築構造 / 接合部 |
研究概要 |
国産材活用やカーボンストック面で極めて有用であり、欧州で盛んになりつつあるクロス・ラミネイティド・ティンバー(以下CLT)による木造建築構法は、地震国でかつ山がちな地形の我が国においては、靱性の確保や輸送性の点から、小幅パネルを組み合わせた構法が開発され、実用化が進められている。一方で、より現場施工性の良い合理的な構法の必要性が指摘され、また耐震性能面で建物の安全性を担保する粘り強さの問題解決が必要である。そこで直交積層効果というCLT独特の材質性能を評価し、これを最大限に活かした新たな接合法とそれを用いたCLT構法を提案することを試みた。 まずCLT耐力壁に適した様々な接合部について実験および解析による性能評価を行った。CLT-ドリフトピン接合の性能評価を進展させ、粘り強さを生み出すメカニズムを力学モデルの構築とと材料特性の評価の両面から検討した。特に材料特性について、ドリフトピンの面圧と、部材のせん断強度を予測する算定式を構築した。またラグスクリューボルトを用いた柱脚接合部と併用したCLT耐力壁の面内せん断性能評価を行った。CLTの材料特性値と、柱脚接合部の力学モデルから耐力壁全体の挙動を推定する算定式を導き、試験値の挙動を精度良く推定した。さらにL型T型部材化したCLTを耐力構面に用い、ドリフトピンを用いて接合する構法について検討し、これまでの研究で得られた接合性能をバネモデルとして用いた非線形フレームFEM解析を行い、耐力壁性能を有効に発揮しうるドリフトピン接合部配置やCLTパネル形状について、検討を行っている。少ないドリフトピン本数で施工が容易な手法によって、十分な耐力性能と大きな靱性を持つ耐力構面を構築できる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CLTは国内で様々な研究が行われており、技術や知見が日進月歩で進展している。その様子を参考しつつ、研究の進路を適宜修正していく必要が認められる。本研究の目的は高耐力・高靱性なCLT耐力構面を開発する事である。この目的に沿った、CLTパネル自体の面内せん断材質特性の評価や、接合部との取り合いに必要な材質特性の評価は順調に進んでいる。一方で、面内曲げ強度にばらつきが大きいというCLT特有の問題が明らかとなり、その原因究明の検討を行う必要がある。また申請時に考案していた接合法が特許等の関係で実現障壁が大きいことが分かったため、別種の接合法やパネルの用いかたを併せて検討している。 これまでの検討で、十分に強度に余裕を持ちラグスクリューボルト(LSB)接合部を構成し、かつ金物部で降伏性能を持たせるように設計するとCLT鉛直構面を構成するのに利点が大きい事が明らかとなった。一方、ドリフトピンを用いた接合部はそれ自体で大きな靱性を持つため、LSBと比べても有用性が大きいと言える。しかし少数で大きな耐力性能を持たせるべくCLTパネル形状を工夫し、L型部材とすることで接合部近辺に作用するモーメントとせん断力を相対的に小さく設計することで、より合理的な構面を構成できる可能性を見出している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は特にL型CLTパネルとドリフトピン接合部を組み合わせた構法について、より詳細な評価を行う予定である。L型部材を用いた構面水平せん断試験を実施し、非線形フレームFEM解析によって予測した結果と比較検討することで問題点を明らかとすると共に、設計用評価式の構築を目指す。同時に、面内せん断力と曲げ力を同時に受ける複合応力条件下でのCLTパネルの破壊挙動についてより詳細に検討を行い、設計用基準強度値を導く概念の導出を試みる。 その他以下の検討を実施する。 ①接合部試験の実施:1)CLT端部せん断に対するドリフトピン接合部の挙動を評価するため、逆対称曲げせん断試験の実施、2)パイプ挿入ボルト締め摩擦接合部の挙動の確認、およびせん断破壊メカニズムの解明、3)長尺スクリューを用いたCLT接合部の耐力評価、4)以上に加え、これまで開発された各種接合部の性能との比較検討試験を実施する。 ②鉛直構面試験の実施:①の接合部を用いた鉛直構面の水平せん断性能評価試験を実施する。通直およびL型のCLT部材を用い、ドリフトピンで接合した構面の性能を評価する。特にL型部材コーナー部付近での応力集中に伴う曲げ破壊挙動に着目した解析を行う。 ③力学モデルの構築とFEM解析の実施:接合部の力学モデルを構築し、耐力推定式を導く。それを用いた接合バネを仮定することで、鉛直構面のFEMモデル化を行い、非線形解析を実施して実大試験の結果と比較する。パラメータ計算により合理的な接合部配置、部材断面形状を決定する。 ④水平構面用耐力要素の開発:複数のCLTパネルを有効に接合することで、面外変形に対する荷重を有効に伝達するパネル間接合法を開発する。具体的には長尺ビスを併用した後施工接着接合を想定している。要素実験、その結果を用いたFEM解析によりその有効性を検証する。またクリープなど長期性能評価を行うための準備を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
CLTは比較的高価でありまた構面試験を想定して大量の材料を使用予定であったため、試験体としての材料購入費を多く申請していたが、実際には材料・接合の面で課題が多く見出されその検討に多くを費やし、結果として予想よりも材料使用量が少なく済んだ。このため、大がかりな構面試験を翌年に繰り越すこととし、その材料購入予算を保存した。 上に述べたように、本年度は実大構面試験を実施予定のため、材料費が前年度よりも多くかかる見込みである。また、脆性的な破壊性状の多い試験を繰り返したため、試験装置に不具合が生じてきており、大がかりな修理が必要である。さらに高耐力の接合部を評価する為に試験装置の容量を増加させるためのコントロールアンプを導入するつもりであり、その購入費としたい。
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