研究課題/領域番号 |
25712032
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
遠野 雅徳 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産草地研究所家畜飼養技術研究領域, 研究員 (50547718)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 微生物 / 畜産学 / 乳酸菌 / ゲノム |
研究概要 |
本研究は、第二の脳と呼ばれる腸管神経系とプロバイオティック乳酸菌の関係を追究する新領域創成を目指して、ゲノム科学と分子生物学的手法の高度有効利用することにより、乳酸菌の神経伝達物質による増殖促進作用の機構解明を目指すものである。これにより、神経伝達物質認識性乳酸菌である「ニューロバイオティクス」を日本から世界に向けて提唱し、ストレス応答による腸内細菌叢の悪化を予防・改善する新発想の機能性食品・飼料の創成に資する。 本年度は、主に神経伝達物質認識性乳酸菌Lactobacillus plantarum TO1002株のゲノムDNAについて、次世代シークエンサーRoche 454及びIllumina Hiseq 2000により解読し、de novoハイブリッドアッセンブルによるゲノムDNAの解析を行った。その結果、本乳酸菌株は、総塩基長約3.2Mbpであり、総スキャホールド28個に集約された。本ゲノムDNAと神経伝達物質非認識性乳酸菌であるL. plantarum WCFS1株(同種異株)のゲノムDNAの比較解析した結果、ホモSNP、ヘテロSNP、ホモInDelをそれぞれ404個、12個、9個見い出すことに成功した。今後、これらのゲノム上の違いを構造遺伝子レベルで追究することにより、本メカニズムに直接関与する遺伝子の同定に繋がると考えられる。また、遺伝子の有無を確実に把握するために必要不可欠であるTO1002株のゲノムDNAの完全解読を目指し、次々世代シークエンサーPacBio RSを用いたゲノム解読を行った。その結果、本菌株は1本の完全環状染色体と2本のプラスミドを有することが推定された。 さらに、本現象の解明に有用な菌種間パンゲノム解読に活用できる新乳酸菌種として、L. iwatensis、L. silagei及びAerococcus vaginalisの発見に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初、ゲノムDNAの次世代シークエンサーによる解読は順調に進んだが、最新の解析手法の構築も含めたバイオインフォマティックスの局面において、当初の想定よりも若干の研究進捗の遅延が認められた。また、冬場の2度の大雪被害により、所属研究機関の地域一帯で大停電が発生し、微生物の培養やサンプル調製等に一部影響が見られた。しかしながら、当初予定していなかった次々世代シークエンサーを使用できる機会を得ることに成功し、データの解読と解析に飛躍的な進捗が認められたことから、本研究は、概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ゲノム科学を活用した菌種・菌株間比較ゲノム解析による神経伝達物質認識機能に関わる遺伝子推定 動物・植物由来Lactobacillus属菌種において、菌種グループ間のゲノム比較解析をする。本研究で供試するゲノム未解読のLactobacillus plantarum TO1002株には、神経伝達物質を認識し増殖促進する機能があるが、同種異株のゲノム解読済WCFS1株には、機能がないことを発見している。昨年度に引き続き、次世代シークエンス解析と詳細なバイオインフォマティクス解析を実施し、菌種から菌株レベルに至るまで新機能の相違をゲノムレベルで解明する。 (2)エレクトロポレーション法による目的遺伝子破壊株の作製による作用機構の解明 推定した機能遺伝子をエレクトロポレーション法により欠損させ、遺伝子破壊株を作製する。神経伝達物質に対する応答の違いについて、破壊株と野生株との比較により検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)研究対象の乳酸菌ゲノムDNAの完全解読のために、次世代シークエンサー解析結果の情報量の上乗せを想定して、複数回の解析費用を見積もっていた。しかしながら、研究開始後に次々世代シークエンサーの使用できる機会を得ることに成功した。本解析は単価としては高額であったものの、次世代シークエンサーよりも遥かに優れた情報量を得ることができた。これにより、解析実施回数の大幅な削減に繋がり、総コストとしては予算の確保に繋げることができた。 2)2年度以降の解析に使用予定であった遺伝子導入装置を先行で購入し、時間がかかると予想された条件検討に着手する予定であったが、条件設定も比較的簡単である実験機器の新規マイナー更新情報が得られたために、本機器の購入を研究計画に沿って次年度以降にすることした。これにより、研究期間全体を見通した場合において、研究推進に繋がると判断した。 本年度では、昨年度購入予定であった最新の遺伝子導入装置を購入することにより、大幅な研究の推進を目指す。また、次年度使用額によって、シークエンス解析費用を担保できることから、菌種間パンゲノム解析において、活用する遺伝子情報を増加させることにより、解析データの信頼度を飛躍的に高めることに繋げる。
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