研究代表者らはこれまでに、インスリン応答性糖輸送体GLUT4の細胞内における一分子動態を高精度にナノ計測できる独自の実験系を用いることにより、2型糖尿病に特徴的なインスリン抵抗性の発症機序としてこれまでよく知られていたインスリンシグナル伝達系の減弱に加え、GLUT4ソーティング障害が極めて重要であるという新たな概念を提示してきた。本研究では、この実験系のさらなる改良により、GLUT4細胞内輸送動態についてより詳細に解明することを目指す。 本年度は、昨年度までに完了した培養細胞における計測に加え、生体内における最大の糖代謝器官である骨格筋線維におけるGLUT4ナノ計測を可能とする系を確立し、この標本におけるGLUT4輸送動態について詳細な解析を進めた。そのために骨格筋選択的にmyc-GLUT4-EGFPを発現するトランスジェニックマウスを樹立し、それより単離したヒラメ筋および長趾伸筋を用いることで、これら骨格筋におけるGLUT4ナノ計測に成功した。そして、インスリンやAMPK活性化剤による挙動変化を検出した。さらに超解像顕微鏡法など他の顕微鏡と組み合わせた解析により、骨格筋線維内におけるGLUT4挙動に与えるインスリン作用について新たな概念を提示する知見を得ることに成功した。加えて、GLUT4輸送における鍵因子として示唆されていたTBC1DファミリーRabGAPであるAS160とTbc1d1の機能解析を行うことにより、運動によるインスリン感受性向上の一部にこれらの分子群が関与している可能性を示唆した。
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