アンチトリプシン欠損症という、欧米で多くの患者を抱える家族性遺伝疾患が存在する。その主な原因はアンチトリプシンというタンパク質の多くが細胞内で異常に凝集した結果、血液中へ分泌される正常型のアンチトリプシンの量が減ることが明らかとなっている。本研究で新たに着目したのは、形成される凝集体の多様性とその運命である。 まず、凝集体は少なくとも3つのメカニズムで形成され、0~2日でその大きさ・構造体としての完成度が急速に成長することがわかった。それらは細胞内で蓄積するだけでなく、構造の規則正しさから細胞外へも分泌される。またそれらは、アンチトリプシン強発現などのストレスにおかれた細胞、老化モデルマウスの血中において存在することを確認した。では、分泌された凝集体は他の細胞にとって毒とはならないのかが疑問である。 アンチトリプシン凝集体は確かに他の細胞に取り込まれ、多くが細胞質に局在することがわかった。一部は細胞の表面に沈着していることがわかった。しかしながら、アンチトリプシン凝集体を取り込んだ細胞は、明確な細胞死マーカーの変化を示さず、生存率の変化も見られなかった。この観察が、本研究の仮説と大きく異なり、成果として提出しかねている要因である。果たして、アンチトリプシンの規則的な凝集体形成は、細胞に毒性を示すと言えるのか。慎重な検討が必要と考えている。実際に、老化モデルのマウスでも、若年の方が血中に凝集体を多く持つという理解が難しい結果を得た。 最後に、アンチトリプシン凝集体形成で見られる、ドメインスワップという、タンパク質分子がお互いにその構造を補う合うことにより完成する凝集体の形成は、一般的なタンパク質で観察されるのかを検討した。それらの毒性を細胞内で簡便に評価する系を構築し、未だ明確な結論のないドメインスワップしたタンパク質凝集体が生体へ与える影響を今後も定義していく。
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