肝臓における難治性疾患のひとつである肝内胆管がんは、従来、胆管上皮細胞を起源とする腫瘍であると考えられていた。ところが、我々は、肝内胆管がんが、胆管上皮細胞ではなく、肝細胞から生じる腫瘍であることを発見した。また、肝細胞の運命転換にはNotchシグナルの活性化が重要であり、その阻害は肝細胞の運命転換を抑制することも判明した。そこで本研究では、肝内胆管がん発症過程における肝細胞のNotchシグナル活性化機序の解明を目指して研究を進めた。その結果、肝内胆管がんを誘発する肝障害により、Notchリガンドのひとつ、Jagged-1の発現が肝臓内で一過的に上昇することを見出した。また、Jagged-1は肝臓中のマクロファージであるクッパー細胞が発現し、肝細胞の運命転換を誘導するだけでなく、肝細胞の死滅、並びにマウス個体の死滅を防ぐ働きを有することが判明した。 一方、我々は、肝内胆管がんに加え、慢性的な肝障害によって門脈周囲に生じる肝前駆細胞もまた肝細胞をその起源とすることを見出していることから、本研究では、これら肝前駆細胞の特性についてもさらに詳しく解析した。その結果、肝前駆細胞が、これまでに分かっている肝細胞や胆管上皮細胞への分化能だけでなく、筋線維芽細胞への分化能も有することが明らかとなった。通常、培養下における筋線維芽細胞への分化頻度はとても低いが、p53欠損肝前駆細胞から形成される腫瘍ではドナー細胞由来の筋線維芽細胞が数多く観察され、上皮系腫瘍組織を取り囲む間質組織として「腫瘍微小環境」の様態を呈していた。したがって、p53を欠損した肝前駆細胞は、自らが腫瘍を形成するだけでなく、腫瘍形成をサポートする微小環境をも自ら作り出していることが判明した。 以上の結果は、肝細胞の分化状態の破綻と疾患の発症をつなぐ分子機構の理解を大きく進める成果となった。
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