研究課題
若手研究(A)
高度に進化を遂げた多剤耐性菌のモデルとしてアシネトバクター・バウマニ(Ab: Acinetobacter baumannii)に注目し、国内医療機関から臨床分離されたAb流行株と非流行株を含む133株のゲノム配列をIllumina社およびRoche社のパイロシークエンサーを用いて解読した。さらに国外医療機関のAb臨床分離株の配列データを加えた213株の大規模な比較ゲノム解析を行った。Ab流行株のゲノム配列をリファレンスに用いたBLASTatlas解析から、Ab流行株に特異的に存在するDNA領域にVI型分泌機構(T6SS)依存的に分泌する抗菌エフェクターTseXとその抗菌活性を阻害する免疫タンパク質TsiXをコードする遺伝子対を発見した。これらの遺伝子産物に類似のアミノ配列を有するホモログタンパク質はGenBankデータベース上には存在せず、TseXは新規の抗菌エフェクターであると推測された。TseXを大腸菌の細胞質に発現させても増殖阻害は観察されないが、TseXのN末端側にOXA-51型β-ラクタマーゼ由来のSec系分泌シグナルペプチドを融合させたPeri-TseXを発現させると大腸菌は2時間以内に死滅した。また、TsiXの共発現によってPeri-TseXの抗菌効果は顕著に阻害された。TseXの立体構造予測から、細胞壁溶解酵素であるムラミダーゼに類似したドメイン構造を発見した。同酵素の活性部位に存在するヒスチジン残基をアラニンに置換したPeri-TseX-HA変異体は大腸菌に対する抗菌活性を顕著に失った。Ab流行株を大腸菌などのグラム陰性菌と共培養すると競合菌は速やかに死滅したが、Ab流行株は黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌とは競合しなかった。以上の結果から、TseXはT6SSを介して競合するグラム陰性菌のペリプラズムに注入され、細胞壁を標的とすることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
初年度の目標はAb流行株が有する抗菌エフェクターと免疫タンパク質の同定であったため、現在まで順調に研究が進展していると言える。当初の研究計画では、Ab流行株のゲノムDNAを超音波破砕装置にて断片化後、高コピープラスミドに組み込み、同ライブラリーを大腸菌にランダムに導入し、Ab流行株で殺菌されない菌株を選択することで免疫タンパク質を探索するmulticopy suppressor screeningを行い、さらにAb菌体破砕液を用いた免疫沈降もしくはGSTプルダウンにて、免疫タンパク質と共沈降する抗菌エフェクターを質量分析解析にて探索し、抗菌エフェクターと免疫タンパク質のセットを同定する予定であった。しかし、緑膿菌やコレラ菌などAb以外のT6SS陽性菌に関する研究報告から、抗菌エフェクターと免疫タンパク質が複数対存在した場合、大腸菌に全ての免疫タンパク質を発現させないとT6SS陽性菌との競合でほぼ完全に死滅することが考えられた。Ab流行株においても、抗菌エフェクターと免疫タンパク質の複数対存在した場合、当初企図したmulticopy suppressor screeningの実験系では免疫タンパク質の探索に失敗する可能性があった。そこで、全国の医療機関から収集したAb臨床分離株のゲノムを解読し、流行株と非流行株の比較ゲノム解析を大規模に行い、流行株に特異的に存在するDNA領域の探索することで、抗菌エフェクターTseXと免疫タンパク質TsiXをコードする遺伝子の同定に成功した。
当初の研究計画に準じて、初年度に同定したAbの抗菌エフェクターと免疫タンパク質に、β-ガラクトシダーゼのN末端とC末端フラグメントをそれぞれ融合させ、両者が結合している場合にのみ酵素活性が発揮されるenzyme fragment complementation assayの実験系を大腸菌にて構築する。この際、緑膿菌のTse1-Tsi1など、既知の抗菌エフェクターと免疫タンパク質においても同様の評価系を確立し、以下の化合物スクリーニング実験を同時に進める。東京大学創薬オープンイノベーションセンターの化合物ライブラリーを用いて、抗菌エフェクターと免疫タンパク質の結合を阻害する化合物を探索する。緑膿菌のTse1-Tsi1など立体構造が明らかになっているものに関しては、抗菌エフェクターと免疫タンパク質の結合に重要な免疫タンパク質側のポケット構造を標的とした化合物を予めin slicoスクリーニングで絞った後に実際の実験を行う。また、吸光/蛍光マイクロプレートリーダーを用いて、化合物の添加による相互作用の解離と菌生育への影響を、レポーター酵素の活性と生菌死菌を染め分ける蛍光試薬の蛍光を指標に評価する。また、マウスマクロファージ様細胞株RAW264.7や樹状細胞株DC2.4などの培養細胞と臨床分離株を用いた培養細胞感染モデルの条件を検討する。マウス経鼻感染による動物感染モデルの構築に最適な菌投与量や感染期間の条件検討も、個体の体重増減、サイトカイン産生量、感染部位局所での細胞毒性などの影響を精査しながら進める。確立したin vitroおよびin vivo感染モデルにて、T6SS陽性株と抗菌エフェクターを含む各種T6SS関連遺伝子欠損株の病原性を、単独感染および混合感染にて評価を行う。混合感染の場合は、T6SS依存的な細菌-細菌間と細菌-宿主間双方の相互作用を細胞死に注目して解析する。
業者への支払いの際、試算していた銀行振り込みの手数料が間違っていた。業者への支払いの際、銀行振り込みの手数料に用いる。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) 産業財産権 (1件)
J Antimicrob Chemother
巻: 69(5) ページ: 1430-1432
J Med Microbiol
巻: in press ページ: in press
J Microbiol Methods
巻: 94(2) ページ: 121-124
10.1016/j.mimet.2013.05.014
Genome Announc
巻: 1(4) ページ: e00476-13
10.1128/genomeA.00476-13
巻: 1(5) ページ: e00919-13
10.1128/genomeA.00919-13