研究課題
高度に進化を遂げた多剤耐性菌のモデルとしてアシネトバクター・バウマニ(Ab: Acinetobacter baumannii)に注目し、国内医療機関から臨床分離されたAb流行株ST2株とそれ以外の株を合わせて133株のゲノム配列を次世代シークエンサーを用いて解読した。さらに海外医療機関の臨床分離株を加えた213株の大規模な比較ゲノム解析を行った。Ab ST2株のゲノム配列をリファレンスに用いたBLASTatlas解析から、Ab ST2株に特異的に存在するDNA領域にVI型分泌機構(T6SS)依存的に分泌する抗菌エフェクターTseXとその抗菌活性を阻害する免疫タンパク質TsiXをコードする遺伝子対を発見した。SNPを用いた系統樹解析から、Ab ST2株は5つのcladeに細分類可能で、tseXとtsiX遺伝子のオペロンがコードされたDNA領域はclade毎で多様性があり、個々のエフェクターは異なる抗菌活性を有していることが明らかとなった。また、国内医療機関から臨床分離された緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の多剤耐性株20株とGenBankに登録された緑膿菌の海外臨床分離株についてゲノム解析を行い、T6SS抗菌エフェクターTse1とその免疫タンパク質Tsi1はほとんど全ての菌株に保存されていることを確認した。そのため、Tse1-Tsi1複合体は緑膿菌に対する抗菌薬開発のよい標的と考えられ、in silicoスクリーニングにて阻害化合物候補を同定した。また、緑膿菌流行株ST235株に特異的に存在するDNA領域に新規T6SSエフェクターの候補と思われる遺伝子を発見した。BLASTによるホモロジー解析では、同遺伝子は緑膿菌流行株でのみ存在することから、流行株の迅速な診断法にも応用可能であり、ST235株を標的とした抗菌薬開発ではよい標的となることが予想された。
2: おおむね順調に進展している
初年度2013年度の目標はAb臨床分離株が有するT6SS抗菌エフェクターと免疫タンパク質の同定で、2014年度からは緑膿菌臨床分離株が有するT6SS抗菌エフェクターと免疫タンパク質も抗菌薬開発の標的に加えた。現在までにAbでは同菌種に広く保存されたT6SS抗菌エフェクターは研究代表者の解析も含めて同定されていないが、緑膿菌では同菌種で広く保存された抗菌エフェクターと免疫タンパク質が複数対存在することが報告されていた。そのため、緑膿菌に対する抗菌薬開発の標的として、同菌種に広く保存されている遺伝子を標的として選ぶことが可能であった。研究代表者による検討から、T6SS抗菌エフェクターTse1とその免疫タンパク質Tsi1は日本を含む世界の医療機関で臨床分離されたほとんど全ての緑膿菌株に保存されていたことから、緑膿菌に対する抗菌薬開発のよい標的と考えられた。Tse1-Tsi1複合体は既に高分解能のタンパク質複合体の立体構造が報告済みであったことから、Tsi1のTse1活性部位に対する結合ポケットを標的としてin silicoの化合物スクリーニングを行うことが可能であった。一般的に緑膿菌は外膜の排出ポンプの活性が強いため、最終年度2015年度は、まず分子量500以下の低分子量の阻害化合物候補を中心に緑膿菌の生菌を直接用いてin vitroのスクリーニングを進める予定である。緑膿菌流行株ST235株においては、同株に特異的に存在するT6SS抗菌エフェクター候補遺伝子も同定しており、2015年度中に可能な限り検討を進める。そのため、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
2014年度に確認した緑膿菌のT6SS抗菌エフェクターTse1と免疫タンパク質Tsi1に、β-ガラクトシダーゼのN末端とC末端フラグメントをそれぞれ融合させ、両者が結合している場合にのみ酵素活性が発揮されるenzyme fragment complementation assayの実験系を大腸菌ではなく、緑膿菌にて構築する。東京大学創薬オープンイノベーションセンターの化合物データを用いて、抗菌エフェクターと免疫タンパク質の結合を阻害する化合物をin silico探索を行った際に同定した分子量500以下の新規抗菌薬候補となる化合物を中心に、緑膿菌の生菌を直接用いてin vitroのスクリーニングを行う。また、吸光/蛍光マイクロプレートリーダーを用いて、化合物の添加による相互作用の解離と菌生育への影響を、レポーター酵素の活性と生菌死菌を染め分ける蛍光試薬の蛍光を指標に評価する。また、マウスマクロファージ様細胞株RAW264.7や樹状細胞株DC2.4などの培養細胞と臨床分離株を用いた培養細胞感染モデルの条件を検討する。マウス経鼻感染による動物感染モデルの構築に最適な菌投与量や感染期間の条件検討も、個体の体重増減、サイトカイン産生量、感染部位局所での細胞毒性などの影響を精査しながら進める。確立したin vitroおよびin vivo感染モデルにて、T6SS陽性株と抗菌エフェクターを含む各種T6SS関連遺伝子欠損株の病原性を、単独感染および混合感染にて評価を行う。混合感染の場合は、T6SS依存的な細菌-細菌間と細菌-宿主間双方の相互作用を細胞死に注目して解析する。
年度末納品等にかかる支払いが平成27年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成26年度分についてはほぼ使用済みである。
上記のとおり。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 産業財産権 (1件)
Genome Announc
巻: 3(3) ページ: e00405-15
Cell Host Microbe
巻: 16(5) ページ: 581-591
Antimicrob Agents Chemother
巻: 58(12) ページ: 7611-7612
Proc Natl Acad Sci USA
巻: 111(40) ページ: E4254-E4263.
Nat Commun
巻: 5, Article number ページ: 4497
J Med Microbiol
巻: 63(6) ページ: 870-877