研究課題
粘膜免疫を担当するTh17細胞は上皮細胞や他の自然免疫細胞とネットワークを形成し外界と接している粘膜組織で常時起こっている免疫応答の最前線で機能しており、病原菌に対する粘膜感染防御に重要な細胞群である。一方、一部のTh17細胞が可塑性を示し他のTh細胞様の表現系を示すことが最近明らかになってきている。本研究課題では、IL-17細胞系譜リポーター(IL-17-iCre R26ReYFP, IL-17-eGFP IL-17-iCre R26RFP635)マウスを新たに導入してTh17細胞の表現系、機能、可塑性に焦点を絞った研究を継続して展開している。これらレポータ遺伝子発現細胞を様々な細胞表面抗原によってさらに分画化していく作業を進めた結果、メモリー型Th17細胞とエフェクターTh17細胞を高い精度で分離・解析する手法を見いだした。これらメモリー型とエフェクター型細胞の機能解析および遺伝子プロファイリングを行い、特徴的な細胞生物学的機能と変化の大きい転写因子のバリデーション作業を継続して行っている。また、粘膜IgA産生に関与する可塑性を示したex-Th17細胞のサブセットの一つである濾胞性ex-Th17細胞(CXCR5+ PD-1high)をセルソータを用いて腸管パイエル板から純化し、これら細胞の生存能力と表現系偏移についてRAG2欠損マウスに養子移入後に解析を行った。遺伝子プロファイリング解析から、これらの細胞の生存・維持に関わる遺伝子発現は低く、in vivoの機能試験である養子移入後も大部分の細胞に細胞死が認められた。したがって、濾胞性ex-Th17細胞(CXCR5+ PD-1high)は、組織において最終分化したTh17細胞の形態であり、B細胞との相互作用により抗原特異的なIgA産生を誘導した後、すみやかに細胞死する運命であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題では、Th17細胞の分子基盤の確立を目指すことにより、Th17細胞が関与する感染症、アレルギー、自己免疫疾患に対する予防・治療を可能とする新しい免疫療法の開発を目的とする。本年度の成果、即ち、Th17細胞の機能変化と可塑性に関する分子生物学的・細胞生物学的解析は、Th17細胞の制御法確立に向けた理解を進めたと考えられる。また、Th17細胞特異的な分子マーカーの候補も見いだしており、その分子を標的とした制御法開発も期待できる。
本研究課題では、前年度に引き続き、レポーターマーカーと細胞表面抗原の組合せによってTh17細胞の各サブセットの解析を継続する。今後、粘膜組織に常在するIL-17産生γδT細胞の機能とその恒常的条件下における生理的役割についても検討を加える。具体的には、これらγδT細胞の粘膜組織における機能と恒常的に誘導される下流分子の同定、その制御に関わる転写因子、サイトカインについても検討を行っていく。また、生体防御に必要であるTh17細胞と自己免疫疾患を惹起するTh17細胞に異なった分子的特徴があるかどうかも不明な点が多く、恒常的な条件下において粘膜組織に常在するエフェクターTh17細胞と自己免疫病を惹起する炎症組織中のエフェクターTh17細胞の機能および制御機構の差異についても詳細な解析を行う予定である。
次年度に計画している次世代シークエンサーを駆使した遺伝子プロファイリングの作製やプロテオミクス解析など、比較的高額な研究計画を実行するために予算が必要となったため。
次年度、これまで継続して行ってきた研究課題の研究費に加えて上記の解析費用として、物品費、旅費、その他として使用計画している。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Science
巻: 346 ページ: 363-8
10.1126/science.1259077.
Immunity
巻: 40 ページ: 989-1001
10.1016/j.immuni.2014.04.019.