研究課題
質量顕微鏡法(質量分析イメージング)とは、組織切片上に存在する代謝物などの分布を可視化することのできる質量分析学的手法である。一般病理染色などの従来のイメージング手法では可視化が困難であった分子の位置情報を取得することが可能であるため、病態を検査するための新たな手法として応用が期待されている。しかしながら、現時点では、得られた結果の病理学的な解釈をするための生物学的研究手法との連結法が十分に確立されていない。本研究期間は、質量顕微鏡で得られたデータを既存の病態検査や生物学的手法と融合し、新たな病態検査法としての実用性を向上させることを目的とした研究を中心に行った。平成27年度の主な研究成果を以下に示す。発症機構が不明であるヒト腹部大動脈瘤を質量顕微鏡法によって解析し、ヒト腹部大動脈瘤血管壁の外膜に中性脂肪が異常分布していることを可視化した。病理学的な解析により、中性脂肪の分布は異常増殖した脂肪細胞が原因であることを明らかにした(Journal of vascular research 2015)。さらに前年度までに質量顕微鏡法によって明らかにしていた腹部大動脈瘤血管壁の循環不全が、腹部大動脈瘤の形成に関与していることを動物モデルを用いて証明した(Plos One 2015)。この解析中に質量顕微鏡法で測定した組織切片を免疫組織化学染色に再利用することを目的として、再利用可能な条件検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究助成によって得られた成果が総説として掲載されたほか、原著論文が3報受理されたため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
本研究助成によって得られた知見をもとにして新たな病理解析に取り組み、病態検査における質量顕微鏡法の応用範囲の拡張に努める。
研究の効率化を図るために500万円の装置の導入を予定していたが、採択された金額では装置を購入することができずに断念した。研究補助員を雇用することによってこれに対応したため、本来想定していた額との差が次年度使用額として生じた。
引き続き研究補助員を雇用する費用及び消耗品として使用する計画である。
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Journal of Atherosclerosis and Thrombosis
巻: 未定 ページ: 印刷中
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