研究課題
若手研究(A)
平成25年度は,政府統計である「厚生労働省院内感染サーベイランス事業」(JANIS)の手術部位感染部門データの利用申請を行い,データを取得した.JANIS事業はこれまで,「創の清潔度」,「ASAスコア」,「手術時間」,「腹腔鏡下手術の有無」の4変数を組み合わせたリスク・インデックスの値により層別した医療機関別感染率をベンチマーク指標として公開してきた.しかし,リスク・インデックスの妥当性に関する疑義が多くの研究によって指摘され,米国NHSNでは,多変量ロジスティック回帰モデルを用いて算出される医療機関別標準化感染率へと変更している.一方,平成25年度の研究成果の1つとして,グラフィカル・モデリングを用いた解析を実施した結果,手術部位感染は各リスク因子が複雑に影響しあって発生していることを明らかにした.そのため,標準化感染比の算出モデルを開発する際には,リスク因子の交互作用を精緻に検討する必要がある.そこで本研究では,各リスク因子の全ての交互作用項を投入した多変量ロジスティック回帰分析を行い,AIC値に基づいた術式別の標準化感染比算出モデルを選択した.本成果物は平成26年度に公開予定である.また,平成26年度に解析予定である抗菌薬の使用量と耐性菌の発現状況の関連性研究に備え,カルバペネム系抗菌薬の使用密度と緑膿菌の耐性化割合を例に,解析プログラムコードを作成した.抗菌薬の使用密度を算出するために,WHOが公開している抗菌薬別のDDD値を収集し,レセプトデータに含まれる医薬品コードとのマスターテーブルを作成し,DPCデータを用いて抗菌薬の使用密度を算出するためのプログラムを作成した.これにより,平成26年度以降の研究計画が遅延なく実施するための解析環境を整えた.
2: おおむね順調に進展している
当初予定では,平成25年度において,本研究計画に賛同する40病院を対象に病院訪問し,データ提供に対する了承を得た後に,平成25年分のJANISデータならびにDPCデータ(患者属性・医療行為情報を含む)を収集する予定であった.しかし,平成25年4月に研究代表者の所属先異動があり,また,スケジュール事情により,倫理審査を受審することができず,データ収集に着手することができなかった.データ収集の観点から当初予定に比べて遅延が生じている.しかし,平成26年度以降に予定していたデータ解析プログラムの開発を前倒しで実施することで,研究計画全体に与える影響はほとんど生じることなく,当初の研究目的を滞り無く達成することができる.
平成26年6月に倫理審査を受審し,7~8月にかけて,研究協力依頼ならびにデータ収集を行う.データ解析を9~11月にかけて実施し,12月に研究成果を調査協力病院にフィードバックする.当該フィードバックが,本研究における介入群に対する介入内容になる.フィードバック後の抗菌薬の投与状況ならびに耐性化発生状況について,引き続き観察する.対照群は,平成28年度に調査協力病院を募り,フィードバック介入のない医療機関における抗菌薬の投与状況ならびに耐性化発生状況について評価する.なお,平成26年度に計画している,介入群におけるデータ解析期間が3ヶ月という比較的短期間ではあるが,平成25年度において解析プログラムコードを開発済であるため,解析は滞り無く実施できる.
当初予定では,平成25年度において,本研究計画に賛同する40病院を対象に病院訪問し,データ提供に対する了承を得るための旅費等が発生する計画であった.しかし,平成25年4月に研究代表者の所属先異動があり,また,スケジュール事情により,倫理審査を受審することができなかったことから,平成25年度に病院訪問を実施することができなかった.この理由により次年度使用額が生じた.当初の研究計画では平成25年度に予定していた医療機関への研究協力依頼を,平成26年7~8月にかけて実施する.新たな計画における研究協力依頼の時期の根拠は,九州大学医学部の倫理審査を平成26年6月に受審し,承認後速やかに研究協力依頼を行うためである.
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