研究課題
ハンチントン病や筋強直性ジストロフィーなどのトリプレットリピート病では、CAGやCTGといった3塩基繰り返し配列(リピート)が異常に伸長しており、そのリピート長は症状の重症度と比例する。これらトリプレットリピート病患者では、年齢とともにリピート長がさらに伸長することにより、症状が進行するとされる。本研究では、こうした症状進行の原因となるリピート伸長機構を解明し、その制御を可能にすることでトリプレットリピート病の治療を目指している。今年度は、前年度に同定したリピート伸長に関与する因子が、DNA修復機構に及ぼす影響を検証した。またこうしたDNA修復蛋白、特にミスマッチ修復蛋白の作用を阻害するリピート結合低分子化合物による、リピート伸長抑制効果をHT1080細胞モデルならびにハンチントン病患者由来細胞で実証した。さらに、Slipped strand DNA構造をとるプラスミドを用いて、低分子化合物によるリピート伸長抑制効果は、リピート部分の転写の際に生じるミスマッチ修復を抑制することによることを明らかにした。また、こうしたリピート伸長抑制効果は、異常伸長リピートに特異的であり、遺伝子の各所に存在する通常の長さのリピートには変化を及ぼさないことも確認した。本年度の研究実績から、こうした作用をもつ低分子化合物は、トリプレットリピート病のリピート長のさらなる伸長を防ぎ、症状の進行を抑制する、新たな治療薬となる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
リピート結合性低分子化合物の細胞モデルでの検証は非常に順調に進み、その効果を短期間で実証した。また、今年度はin vitroプラスミドモデルを用いたリピート長変動機構の解明に重点的に取り組んだが、こちらも順調に推移し、DNA転写機構の関与を明らかにした。さらに、siRNAを用いたノックダウンにより、リピート短縮因子であるsenataxin(SETX)の同定にも成功した。
ヒト細胞モデルでリピート伸長抑制効果がみられたリピート結合性低分子化合物について、ハンチントン病モデルマウス、筋強直性ジストロフィーモデルマウスへ投与して、その安全性と投与方法の確立、および生体内でのリピート伸長抑制効果を検証する。さらに、次世代シークエンサーを用いた網羅的解析により、異常伸長リピート以外の遺伝子への影響を解析する。また、これまでに樹立された患者由来iPS細胞を用いて、ジンクフィンガーヌクレアーゼやCRISPR-CAS9システムによるリピート長短縮誘導法の確立も目指す。
平成26年7月、当初入手したベクターから精製したリコンビナントMSH2蛋白に変異があったためリピート結合能がみられず、ハイスループットスクリーニングに使用できなかった。このため、リコンビナントMSH2蛋白発現ウイルスベクターを他機関より入手し、リコンビナントMSH2蛋白を再合成・再精製する必要が生じた。これにともないハイスループットスクリーニングの期間が延長し、その費用を次年度に繰り越した。
リコンビナントMSH2蛋白を用いたハイスループットスクリーニングに必要な試薬・消耗品、およびヒット化合物の培養細胞での効果確認のための試薬・消耗品費に充当する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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