研究課題
放射線治療に用いられる医療用放射線(陽子や炭素等の荷電粒子線や光子線)が人体中あるいはビーム通過物質との核反応によって二次粒子を放出することが知られている。二次粒子の計測は従来の線量計測法では非常に困難であるため、二次粒子の定量的な線量評価が行われていないのが現状である。本研究では、CR-39プラスチック固体飛跡検出器と原子間力顕微鏡を組み合わせた精密イオントラック計測法を用いて、二次粒子の線量評価を実施することを目的とする。陽子線は特に標的核破砕反応による二次粒子を多く生成しながら人体中を進む。陽子線がCR-39中(組織等価物質)に生成する二次粒子について、放出角度や検出器の臨界角度依存性を考慮した補正方法を確立し、論文として発表した。この手法を用いて、ブラッグカーブに沿った水深さ方向の二次粒子の線量寄与の変化を調べるための160MeV陽子線ビーム照射実験を行い、エッチング処理ならびに原子間力顕微鏡による飛跡画像を取得した。現在この二次粒子のLET(線エネルギー付与)分布の解析を進めている。これと同時に、入射エネルギーを系統的に変化させた陽子線ビーム照射実験を実施した。炭素線は標的核破砕反応に加えて入射角核破砕反応による二次粒子を人体中に生成しながら進む。炭素線290MeV/nが水中で生成する入射核破砕粒子の計測を行った。使用したビームは単色(MONO)のものと6cm深さに拡大した拡大ブラッグピーク(SOBP)である。実験データを取得し終え、現在PHITSコードによるモンテカルロ計算を行っている。光子線は、ライナックから発生するX線(あるいは電子線)がヘッドやコリメータを通過する際に光核反応による中性子を発生させる。10MVのX線で発生する二次中性子の線量ならびに空間分布を水槽中に設置したCR-39スタックを用いて計測を行い、得られたデータをもとに論文として発表した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度中に系統的な陽子線ビーム照射実験を終了させることができた。炭素線ならびに光子線の解析も概ね順調に進展している。
陽子線については、二次粒子放出に関する水深さ方向ならびにエネルギー依存性に関する議論を行う予定である。炭素線についてはモンテカルロ計算との比較と議論ならびに標的核破砕粒子の計測を進める予定である。光子線については照射野の相違による二次中性子の線量評価を行う予定である。
予定していた研究打合せのための海外出張がキャンセルとなったため。
炭素線解析のための新しい方法の適用を議論するための国内旅費として使用する。
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Nucl. Instrum. Meth. B
巻: 349 ページ: 163-168
10.1016/j.nimb.2015.02.052
巻: 349 ページ: 239-245
10.1016/j.nimb.2015.03.006