研究課題/領域番号 |
25713059
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
久保田 義顕 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (50348687)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 創傷治癒 / 血管新生 / VEGF / VEGFR2 |
研究実績の概要 |
何らかの原因で皮膚・軟部組織が損傷・欠損すると、それをもとの形に復元すべく内因性の創傷治癒プログラムが発動する。そのプログラムにおいて中心的な役割を果たすのが周囲の既存血管からの血管網の新たな増生、つまり「血管新生」である。本研究では、この創傷治癒における血管新生の実態を、従来の「血管新生」のパラダイムに囚われず、より包括的に「血管網リモデリング」と称し、その全容の解明を目的として遂行された。特に、生体内のあらゆる血管新生に必須の分子シグナルとして知られるVEGF/VEGFR2シグナルに焦点を絞って研究は行われた。まず、当研究室の作成したVEcad-BAC-CreERT2マウスをVEGFR2のfloxマウス(Vegfr2-flox)と交配した。得られたVEcad-BAC-CreERT2+Vegfr2flox/flox新生仔マウスの背部に皮膚創傷を作成後、タモキシフェンを投与しVegfr2をノックアウトした。次に、これまで申請者の確立した組織ホールマウント血管染色技術を駆使し、VEcad-BAC-CreERT2+Vegfr2flox/flox新生仔マウスの背部皮膚創傷血管を解剖学的に観察した。そのpreliminaryな解析の結果、血管のsproutingや増殖、血管分枝数の減少よりむしろ、血管径や血流の減少がVEcad-BAC-CreERT2+Vegfr2flox/floxマウスの表現型として著明であることが判明した。この結果は、VEGFシグナルの役割は、創傷治癒においては、いわゆる「血管新生」ではなく、血管の安定化や成熟に重要であり、創傷治癒血管の「質」に正に寄与するという予想外の知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度得られた主要な研究成果として、血管内皮特異的VEGFR2ノックアウトマウスにおいて、創傷部位血管リモデリングの実体である口径や血流の増加が殆ど起こらないという所見が見られた。これは昨年度までに解析を行った、NOシグナル関連の遺伝子改変マウス(eNOSノックアウト、iNOSノックアウトなど)では観察されなかった所見である。この結果は、従来血管成熟、つまり血管の質の向上という観点からは負に働くとされてきたVEGF/VEGFR2シグナルが、創傷部位においてはむしろ正に働くという予想外の知見であり、今後の研究を展開する上で重要な指標である。この重要な結果を得た点で、本研究は順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに実験を重ね、上記の血管内皮特異的VEGFR2ノックアウトマウスにおいて、創傷部位血管の口径や血流の増加が殆ど起こらないという結果の有意性につき検討するとともに、創傷治癒速度の変化、つまり上皮化の程度を検討する。また、創傷部位においては、VEGFおよびVEGF受容体の発現パターンに関して特異的な分布があることが、血管内皮特異的VEGFR2ノックアウトマウスの表現型から想定され、これについても新規VEGFR2レポーターマウス(VEGFR2-BAC-EGFP)などを用いて、通常の血管新生における発現パターンとの差異を詳細に解析する予定である。
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