研究実績の概要 |
本研究では、細胞内寄生性細菌であるA群レンサ球菌(GAS)の特にファージ由来因子に着目した細胞内での多様化・生存戦略の解明と 上皮細胞内の免疫システムであるオートファジーの遺伝子発現制御ネットワークの解明を目指す。そのために、I) GASの大量ゲノム情 報解析を用いて、多様化・進化モデルを提唱する。II) GAS感染後経時的なGASと宿主の同時トランスクリプトーム解析(RNA-seq, TSS -seq)による遺伝子発現ネットワークを解明する。III) モデル実験系でGASの細胞内生存戦略を発現レベルで確認するとともに、ゲノ ム多様化を再現する。可能であれば、その普遍性を他の細胞内寄生性細菌において確認する。今年度も、新学術領域「ゲノム支援」に採択され、昨年までの合計、367株のドラフトゲノム情報を比較に加えて、メチロームおよびトランスクリプトームデータを取得することが出来た。これらの解析から、本菌ではCRISPRの脱落がファージの出入を自由になっている株が存在し、その脱落 により、本菌種において亜種化が生じていることが明らかとなった。この亜種化において、ファージが自由に出入り可能な株では、CR ISPR保有株と比べて、パンゲノムが大きく、ファージが本菌種の進化において重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さら に、ファージは本菌種のゲノム内でプロファージとなり、誘導されるが、誘導される際に本菌ゲノムの周辺領域を切り出す、そして、 ゲノム縮小につながるという新奇コアゲノム縮小機構が存在することが示された。そしてCRISPR/Casシステムの脱落は、まず、repeat配列が一つしかなくなり、cas遺伝子のプロモーターの脱落、repeat配列へのファージの侵入、ファージのcas遺伝子を巻き込んだ脱落によって生じていることが推定された。
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