研究課題/領域番号 |
25730001
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
垣村 尚徳 東京大学, 大学院総合文化研究科, 講師 (30508180)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | パッキング / 被覆 / グラフマイナー理論 / 線形相補性問題 / 整数性 |
研究概要 |
本年度は主に,(i)イマージョン詰込み問題に対するErdos-Posa性の解析,(ii)線形相補性問題(LCP)の整数性の解析を行った. (i) グラフの詰込み問題とは,グラフの中に何か対象となるものを互いに交わらないようにたくさん見つける問題である.詰込み問題はグラフ理論における基本的な問題として古くから研究されており,古典的な結果としてサイクル詰込み問題に対するErdos-Posa性がある.これは,詰め込めるサイクルの最大数とフィードバック点集合の最小サイズを関連づける組合せ的な性質であり,効率的なアルゴリズムを設計するための指針となりうる.本年度は,サイクルを大幅に一般化した概念であるK5イマージョンというオブジェクトを詰め込む問題に対してErdos-Posa性の解析を行った.具体的には,この性質が一般のグラフでは成り立たないこと,そして,もしグラフを4辺連結グラフに限ればErdos-Posa性が成立することを示した.この解析にはグラフマイナー理論という先進的グラフ理論を用いている.現在我々はさらに一般化したKtイマージョンに対してもこの性質が成立すると予想し解明に取り組んでいる. (ii) LCPとは線形計画問題や凸二次計画問題を含む数理計画問題である.本研究では,LCPの整数解の性質を調べるために,線形計画問題で知られている概念である完全双対整数性を線形相補性問題に導入した.線形計画問題に対する完全双対整数性は双対問題の整数解に基づく性質であり,完全双対整数性をもつならば主問題は整数解をもつ.このような完全双対整数性をLCPに拡張するために,まずLCPに対して双対問題を構成する必要がある.そのためにLCPの解の中で方向を制限した解を求める問題を提案し,それにより,LCPの双対問題および完全双対整数性を自然に定義した.そして,LCPが整数解をもつための十分条件を導いた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の主な目的は,詰込み・被覆タイプの組合せ的問題に対するErdos-Posa性の解析と線形相補性問題の組合せ構造の解析であった.前者については,おおむね「研究の目的」に沿って進んでいるが進度は予想よりも速くはない.「研究実績の概要」で挙げたような成果が得られているが論文作成中の段階にあり,成果発表にまで至っていない.その理由としては,初年度のため文献調査が必要となったこと,また,その証明にはイマージョンに関する最新の成果が必要になったためそれを精査する必要があったことが挙げられる.後者のLCPについては,当初の計画ではLCPの疎性などの組合せ的性質と効率的アルゴリズムの関連を解明することを目指していたが,その調査段階においてLCPの整数性に関する興味深い性質が発見された.そのため,LCPの整数性に関する上記の成果を得た.この成果についても国内発表は行っているが論文作成中の段階であり国際発表・成果発表まで至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
まず,上記に挙げたK5イマージョンの詰込み問題を一般化し,サイズtのイマージョンの詰込み問題に対するErdos-Posa性の解析に取り組む.これまでの申請者の研究では,Erdos-Posa性を証明するためにグラフマイナー理論という先進的グラフ理論の手法を用いていた.この理論を用いてイマージョンの性質を調べることで,K5の場合と同様の結果が成り立つのではないかと考えている.また,線形相補性問題に対しては,申請者らが新たに提案した双対問題の性質を明らかにすることを目指す.双対問題はLCPの整数性を調べる上で重要な役割を果たしているが,その他にも興味深い性質を持つことが予想される.双対問題の組合せ的性質を精査し,完全双対整数性などの良い組合せ的構造を持つ線形相補性問題に対して,効率的なアルゴリズムを設計する. さらに,マトロイドインターセクションに対する高速なアルゴリズムの開発に取り組んでいく予定である.マトロイドインターセクションは,二部グラフのマッチングの一般化であり,多項式時間で解くことができる基本的な組合せ最適化問題のひとつである.海外の研究者とも協力し,ある条件下で高速に計算できるようなアルゴリズムの開発に取り組んでいく.
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次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」で述べたように,今年度は初年度のため主に文献調査が中心となったこと,また文献調査段階において計画には挙げていなかったが深く関連する問題に対して興味深い性質が発見されたことにより,当初の予想より計画が若干遅れている.得られた成果は論文作成中の段階のものが多く,いくつかは国内の学会で発表しているが,国際会議発表や論文誌掲載などの成果発表にまでいたっていない.そのため,今年度の使用額において旅費の支出が予想よりも少なくなった. 次年度は,まず今年度に得られた成果について,積極的に国内・国際発表を行なっていく予定である.そのために旅費・その他(学会参加費など)が計上される.さらに,研究を円滑に遂行するために古くなった計算用PCのリプレースを予定している.
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