感染症がどのように人々の間に広まり,そして終息を迎えるのか,そのメカニズムを数学的に記述することは疫学的にも統計学的にも意義がある.本研究の目的は,統計数理モデル(時空間点過程モデル)を用いてインフルエンザの伝播を数学的に説明することである. インフルエンザは人‐人の接触によって引き起こされるため,感染者がいつどこに存在するかという情報に加え,感染者がどの程度の人と接触するかという情報は重要だと考えられる.人‐人の接触機会は,人口や人の流れなどに相関すると思われる.人口や人の流れには地域差があるため,地理データとしてこれらの情報をモデルに取り込む必要がある. 先行研究に基づき,地域別インフルエンザ罹患数データと人口データによる単純な時空間点過程モデルについて検討した.対象地区は宮城県を選定した.宮城県は仙台市の他,7つの保健所管轄区域に分けられる.それぞれの区域ごとにインフルエンザ罹患数データが週報として時系列で公開されており,これらを利用した.インフルエンザ罹患数の変動を,時系列トレンドおよび近隣区域からの地理的な伝播によって説明するというモデルの推定をおこなった.モデルへの近隣情報の取り込みとして,メッシュデータのような保健所管轄区域とは異なる空間集積レベルのデータの利用について検討をおこなった. 現状ではきわめて基礎的なモデルであるため,さらに人の往来などの情報をモデルに盛り込んで,より発展的な解析をおこなう必要がある.
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