研究課題/領域番号 |
25730014
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
篠崎 智大 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60644482)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 統計的因果推論 / 疫学 / 臨床試験 |
研究実績の概要 |
本課題では、患者の生体指標(好ましいレスポンス、または有害な副作用)に応じて次の治療方針を決定していく「動的な治療レジメ」の効果推定が目的である。このために(1)g-計算アルゴリズム、(2)構造ネストモデル、(3)周辺構造モデル、それぞれによる標的パラメータ設定と、それぞれに応じた異なる推定法が存在する。昨年度から、(2)構造ネストモデルについて研究を進めて論文化と学会発表を行っており、今年度はさらに(3)周辺構造モデルに注目した方法論を論文化できた(Epidemiology, in press)。 作成した論文では、周辺構造モデルの推定量そのものの拡張を行った。(2)構造ネストモデルと(3)周辺構造モデルともに、推定方法はセミパラメトリック法(semiparametrics)と呼ばれる推測統計学の一分野に基づく。近年、この分野で注目されている方法論にdoubly robust(double-robust)推定量があり、この方法論に従えば、アウトカムに対する回帰モデルと治療を受ける条件付確率(傾向スコア)モデルのいずれかが正しければ(ただし、両方とも正しい必要はない)、漸近正規性を有する一致推定量を得ることができる。これまで提案されている周辺構造モデルのdoubly robust推定量は、「集団全体」の周辺期待値に対するものだったが、今回の論文では「治療を受けた集団」で定義されるクラスの周辺構造モデルに拡張することができた。この拡張は、概念的にはこれまでも言及されてきていたが(また、教科書によっては誤った公式が記載されていることもあった)、明示的に導出されたのは初の試みであったと思われる。この意味で「動的な治療レジメ」の研究課題の進展に直接影響する研究ではないが、この拡張は一般性の高いものであり、セミパラメトリック法の理解には重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「動的な治療レジメ」の効果推定に必要な方法論(g-計算アルゴリズム、構造ネストモデル、周辺構造モデル)それぞれに対して、学会発表レベルでは一通り成果を上げることができ、順次論文化も進め始めている。構造ネストモデル、周辺構造モデルに対しては、推定方法の拡張が医学統計専門誌へ採択・公開され、方法論的な理解・執筆は順調と考えている。一方で、本研究課題の中心的な問題「動的レジメにおける生体指標の目標値設定」の定式化が依然として難題である。この課題にマッチするようなデータ解析と併せて、今年度の目標としたい。
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今後の研究の推進方策 |
「研究の目的」と「実施計画書」に記載の通り、統計学方法論研究の性格上、コンピュータシミュレーションを軸とした計画を立てている。解析用データに関しては使用の内諾は取れているので、引き続きデータ解析のための準備(データ構造の確認、必要変数の選択など)を進めて、成果公表を速やかに行う予定である。
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