研究実績の概要 |
本課題では、患者の生体指標(治療に対する好ましいレスポンス、あるいは有害な副作用)に応じて以降の治療方針を選択していく「動的な治療レジメ」の効果推定が目的である。本研究では、(1)g-計算アルゴリズム、(2)構造ネストモデル、(3)周辺構造モデル、それぞれによる目標パラメータ設定と異なる推定方法に注目し、データ解析とシミュレーション実験を通した性能評価を行った。 本課題の重要な成果の一つが、ランダム化試験における構造ネストモデル推定法として、従来のg-推定法の定義を広げた方法を提案・定式化し、シミュレーション実験で性能評価を行った点である。成果はこれまでの研究期間内で2回の国際学会と1回の国内シンポジウム(招待講演)で発表した。研究期間内の投稿は叶わなかったが、今年度はがん臨床試験データ解析への適用を行った。この手法は、最適な「動的レジメ」選択を目的に実施される多段階ランダム化試験への適用可能性があり、有用な方法論研究ができたと考えている。 付随する研究結果として、周辺構造モデルのdoubly robust推定量に着目した論文を作成できた(Shinozaki & Matsuyama, Epidemiology 2015)。Doubly robust推定量は、交絡変数で条件付けたアウトカムに対する回帰モデルと、治療の条件付き確率(傾向スコア)モデルのいずれかが正しく特定されていれば(ただし両方とも正しい必要はない)漸近正規性を有する一致推定量であ。この手法は、「動的レジメ」の効果推定に直接関連を有する成果ではないものの、上記の構造ネストモデルの標準的なg-指定法も同様にdoubly robust推定量であるため、「動的レジメ」の文脈で強力な手法である、構造ネストモデルと周辺構造モデルを用いたセミパラメトリック推測の知見を前進させる面で有意義な研究となったと考えている。
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