本研究は、ディジタル集積回路で多く用いられる算術演算回路を高信頼とするため、演算結果の誤りを動作時に検出(オンライン誤り検出)できるだけでなく、出荷後に生じる回路の永久故障を少ない入力パターンでテストできるテスト容易な算術演算回路の開発を目標とした。 1.今年度はテストが容易で,さらにオンライン誤り検出可能な桁上げ選択加算器をあらたに考案した。故障モデルとして単一縮退故障を考えるとき、ビット幅等に依存せず10個の入力パターンでテストできる。動作中に単一の縮退故障による回路出力の誤りの検出も可能で、回路の二重化された桁上げ出力の比較、および、回路が出力する和のパリティ予測値と和の出力のパリティの比較により誤りを検出できる。 2.昨年度までに考案した、部分二重化を用いたオンライン誤り可能な浮動小数点乗算器について、今年度は論文としてまとめ上げた。提案乗算器は、故障による1ulpの誤りを見逃すことがあるが、仮数部の出力のチェックのため面積の小さいTruncated乗算器を用い、これまでオンライン誤り検出の手法として広く用いられてきた単純な二重化と比較して回路面積を小さくできる。 3.昨年度までに、オンライン誤り検出可能な3オペランド複素数乗算回路や、演算途中と最終出力の2段階で演算の正しさをチェックする浮動小数点演算回路を提案した。また、パリティ予測方式を用いる従来の構成よりも面積オーバーヘッドの小さいオンライン誤り検出可能なパラレルプレフィックス加算器を提案し、査読付き論文として出版した。
当初目標とした、テスト容易でオンライン誤り可能な算術演算回路を提案でき、また、当初の目標にはなかった、オンライン誤り検出可能な浮動小数点演算回路を提案できた。本研究の成果は信頼性の高いディジタルシステムの設計に寄与すると思われる。
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