本研究では,ネットワーク内にコンテンツが分散キャッシュされるコンテンツ指向型ネットワークにおいて,(1)効果的にキャッシュを分散配置するための制御手法と(2)効率的にコンテンツを伝送するためのトランスポートプロトコルに関して検討を行い,分散キャッシュを有効利用するトラヒック制御手法の研究開発に取り組んでいる.今年度の研究成果は以下のとおりである. (1)人気度推測に基づく選択的キャッシング手法 効果的に分散キャッシュを利用するためには,コンテンツ伝送経路上に存在する中継ノードの限られたキャッシュ容量を有効活用し,キャッシュヒット率を高める必要がある.そこで,各中継ノードが透過的にキャッシュした場合におけるキャッシュ傾向に関する昨年度の分析結果をもとに,コンテンツ要求の転送履歴から今後のコンテンツ人気度を推定し,それに基づき選択的にキャッシュする手法を提案し,特に新しくコンテンツが発生する過渡状態においても高い有効性を示すことを明らかにした. (2)分散キャッシュ・圧縮技術を用いたトラヒック制御手法 コンテンツ指向型ネットワークでは従来よりもさらに遅延特性や帯域利用効率が重視される.そこで,低遅延でコンテンツを取得できるようにするため,ネットワーク負荷を考慮しつつコンテンツ探索範囲を適切に近隣ノードへ拡大することで,効率的にコンテンツを取得するための手法を提案し,その有効性を明らかにした.また,昨年度検討を行った中継ノードにおける転送待ち時間を利用して効果的にオンライン圧縮を行うトランスポートプロトコルに関して,実トラヒックを用いた検証を行い,その特性を明らかにした.さらに,通信速度だけではなく,通信品質を向上させるため,中継ノードにおけるパケット転送履歴・廃棄履歴に基づいたパケット転送制御手法を提案し,通信フローの安定性・公平性が改善されることを示した.
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