本年度は,ブロックコレスキー分解を中心に,精度保証付き数値計算の応用面を研究した.昨年度までは,実対称行列に対する正定値性の保証にブロックコレスキー分解を導入し,今年度はブロックコレスキー分解を用いた連立一次方程式の数値解の精度保証について取り組んだ.行列の最小特異値の下限の保証が改善され,従来の精度保証付き数値計算と計算時間がほぼ変わらないまま,より悪条件な問題に対しても精度保証が成功することを定性的に示し,数値実験により具体的な効果を検証した.さらに,ブロックコレスキー分解を用いた残差の解析により,行列への対角シフトの量が改善され,残差反復による近似解の精度の改善が従来法よりも良いことを数値実験により確認した.よって,連立一次方程式の数値解をよりタイトに包含することが可能となった. また,faithful roundingと呼ばれる高信頼な数値計算結果を得る高速な行列・行列積アルゴリズムの設計にブロック行列積計算が非常に役に立つことを示せた.faithful roundingとは,真の値に対して隣接する浮動小数点数のどちらかを計算値を意味する.nを行列のサイズとしたとき,行列・行列積に対する従来の丸め誤差評価はnに比例する量であったが,ブロック計算によってnの平方根に比例する量になったため,faithful roundingを保証するための停止条件が緩和され,計算が速く終了する例を多く確認できた.良条件問題に対して,最大では2倍程度の計算時間の短縮を確認している.悪条件問題に対しては従来法とほぼ同じ計算時間で計算できること確認した. 成果の発信としては,国際会議で2回,国内学会で1回の講演を行った.
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