非共有結合などいわゆる弱い相互作用や大きな置換基による立体障害を多用した新規分子構造・機能の設計のため、2次の摂動(MP2)エネルギー1次微分計算のMPI/OpenMPハイブリッド並列アルゴリズムの開発を行い、大規模並列量子化学計算プログラムSMASHに実装した。一度に取り扱う占有軌道数を総メモリ量に応じて変更し、中間データ(原子数の2乗から4乗に比例して増加)をすべてメモリ上に分散保存して、ハードディスクは使用していない。一方、占有軌道の分割数回重複して原子軌道2電子積分項及びその微分計算を行うため、総計算量は利用ノード数に依存する。データ送受信はすべてOpenMP領域外で行い、シンプルなMPI通信にしている。高い並列性能を示し、ナノサイズ分子の精密な構造計算が可能になった。 これまでに開発したSMASHと第一原理経路積分法を組み合わせたPIMD-SMASHプログラムを開発し、レプリカごとのMPI並列、さらにSMASHのMPI/OpenMP並列の3段階の並列化を行った。シクロペンタジエンとブテノン、さらに水分子を配置してDiels-Alder反応の計算を行い、実験で示されている水の存在で遷移エネルギーが下がることを再現した。 研究期間全体を通じた成果としては、京コンピュータでも高い並列性能と実効性能を達成したプログラムをオープンソース(Apache2.0)ライセンスで2014年9月に公開し、1年半でダウンロード数は596であった。SMASHと他のプログラムとの融合も行い、また複数のプログラムにSMASHの一部ルーチンの組み込みも始まっている。SMASHを利用した金属微粒子などの計算を京コンピュータで実行し、これまでは困難であったナノサイズ分子の高精度電子状態及びその構造計算を行った。
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