研究課題
若手研究(B)
本研究の目的は、セラピーを施行するセラピストの認知プロセス、すなわち、他者の話を聞いてその人を理解し、その人の問題解決に向けて相互作用することが、臨床の経験年数によって如何に変化するかについて、認知科学的アプローチを用いて、実証的に明らかにすることである。平成25年度は、まず、クライエント情報の体制化の仕方に関する検討を行なった。実験では、セラピーの様子を写したビデオを実験参加者に提示し、ビデオの終了後に、クライエントが語った内容を覚えているだけ全て書き出してもらった。実験参加者は、経験年数が異なる複数のセラピスト、臨床の知識を全く持たない一般人であった。書きだされたものを量的、質的に分析した結果、実験参加者の経験年数による、量的、質的な相違が明らかになった。また、セラピー場面のクライエントの語りを量的に捉え、経験豊富なセラピストと一般人の相違について理解を深める試みも行なった。これは、上記検討結果をより深く考察するための一助となると考えている。クライエントにどの程度、どのように語る時間を与えるかが、経験豊富なセラピストと一般人との間で異なっていることが示された。加えて、セラピー場面のセラピストの言葉がけを分類し、経験豊富なセラピストと経験の少ないセラピストの間に質的違いがあることを示した。これらの検討は、従来の、セラピストの経験豊富なセラピストによる個人的体験に基づく定性的記述を用いた研究と異なっており、さらに定量的分析や実験、教育効果の検証を進めることにより、本研究は、認知科学における新しい熟達化理論の構築をもたらすと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初予定では、クライエント情報の体制化の仕方に関する検討に続いて、問題解決に向けた分析の仕方に関する検討を行う予定であった。実際、平成25年度には、(1)クライエント情報の体制化の仕方に関する検討を行い、一定の研究成果を得、今後の検討課題をより明確にすることができた。かつ、明らかになった検討課題に基づき、(2)セラピー場面のクライエントの発話長を定量化した結果、臨床経験の有無によって問題解決の方向性が異なることを示唆するデータを得た。これにより、今後焦点を移そうとしている「問題解決」について再考し、研究上の操作的定義を明確にする上での大きな手がかりを得た。さらには、(3)セラピストのクラエイントへの言葉がけの分析を行い、セラピストが如何にしてクライエントの感覚世界を追体験しているか等について考察する手がかりとなるデータを得ることができた。今後の本研究の効果的な遂行に関わる手がかりを得たと考えています。以上から、概ね順調に進んでいると判断している。
平成25年の検討では、セラピストの発話の内容を分析する手法を作成することを試みた。セラピストの発話内容をある観点を切り口として分類することにより、セラピストの認知プロセスにより直接アプローチできる可能性が高まったと考えている。このため、今後、現在作りつつある発話内容の分析手法を改善し、更にサンプル数を増やして検討を行うことを計画している。このとき、子どもへの作業療法を主な題材とする。心理療法が非常に大切にしていて、かつ本研究の焦点である2点、すなわち、セラピストが、クライエントの感覚世界を追体験すること、ならびに、言葉や音声のやりとりによってクライエントが変化するきっかけを提供することを、作業療法は心理療法と同様に非常に大切にしている。作業療法では、上記の点が心理臨床のセラピーにおけるよりも抽出しやすく、かつ、心理臨床場面に比べてデータ収集が容易であるため、より効果的な研究遂行の助けとなると考えている。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Psychologia: An International Journal of Psychological Sciences
巻: 56 ページ: 154-165
10.2117/psysoc.2013.154