本研究の目的は,セラピーを施行するセラピストの認知プロセス,すなわち,他者の様子からその人を理解し,その人の問題解決に向けて相互作用することが,臨床経験年数によって如何に変化するかについて,認知科学的アプローチを用いて,実証的に明らかにすることである. 平成27年度は,昨年度に引き続き,作業療法のセッションを主な題材として検討を行なった.作業療法を扱うことにより,ロールプレイのセッションではなく,現実のセッションを題材とすることが出来た. 作業療法の熟達者,および非熟達者による現実のセッションを複数事例収録し,セラピストの言葉がけを切り口とした分析を行なった.この言葉がけの分析手法は本研究で開発したものである.また各言葉がけが生じたときの子どもやセラピストの行動と対応付させることにより,言葉がけとセラピストの認知プロセスについてより精緻に検討することができると考えられた.そこで,セッションを分節化する手法も開発した.加えて,セラピストの内観報告のデータも得た.これらの分析結果を,電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション基礎研究会等で報告した.また,熟達者による関わりの特徴を明らかにし,これに基づきセラピストの認知プロセスについて考察した. これらの検討は,従来型の,経験豊富なセラピストによる個人的体験に基づく定性的記述を主とした研究とは異なっている.また得られたアイディアは,作業療法のみならず,療育や保育・教育場面に適応することができる.得られた成果について,作業療法学の学会の1つである日本感覚統合学会から講演の依頼を受けた.講演したところ大きな反響があった.今後の講演の機会も予定されている.こうした社会的貢献のほか,本研究成果は論文発表等により,認知科学における新しい熟達化理論の構築に貢献すべくもたらすと考えられる.
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