ヒトは、一部が欠けた図形や文字から元の図形や文字を認知できる能力を持っている。この様な断片的視覚情報の認知は“視覚補間”と呼ばれ、脳内の視覚情報処理の重要な特徴である。本研究では、断片文字を用いて視覚補間能力を定量的に計測し、視覚補間に関与する脳活動をfMRIで解析した。さらに、加齢および認知症の危険因子との関連性を調べることで、断片文字の認知力による認知症の危険予測の可能性を検討した。 平成27年度では、タブレットを使った計測システムを開発した。被験者1人で測定できるように、画面上に説明文書と図を設けるようにした。断片文字の正答率と加齢および認知症の危険因子との関連性を更に詳しく調べるために、断片文字を生成する際のパラメータ(断片率と生成パターン)と白質病変のグレードとの相関を解析した。MRIによる白質病変の分類は、深部皮質下での広がりに応じて3段階(G0:なし、G1:片側性、G2:両側性)にグレード分類した。断片率に関しては、難易度が中程度の場合、白質病変のグレードと関連して正答率が変化する文字が最も多かった。前年度の脳活動解析も、断片率の増加により有意に賦活した脳部位が増え一定の断片率を超えると賦活部位が減るとの結果が得られたため,適切に断片率を設定することの重要性が示された。生成パターンに関しては、文字画像を3段階の抹消単位(1ピクセルづつ、小四方形、大四方形)で消すことで生成された断片文字において、抹消単位が大きいほど残された情報が離れることがわかった。今後、断片率と抹消単位の最適化により脳認知機能との関連性の高い断片文字を生成する方法を検討する。
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