他者と協力作業を行うためには、相手の行動を正確にモニターし、それに合わせて自己の行動を調整する必要がある。ヒト以外の動物を対象にした協力に関する事例は自然観察場面において多く報告されている一方で、実験的な分析に基づいた研究は少ない。本研究では、鳥類(オカメインコ)、げっ歯類(ラット、スナネズミ)、霊長類(コモンマーモセット)という系統発生的に離れている動物を研究対象に協力行動の生起要因について、同一の実験課題より調査することが全体の目的であった。鳥類とげっ歯類についてはデータ収集が進んでいるため、今年度は霊長類の課題に重点をおいた。霊長類の研究に際しては、実験実施の都合上、短期間で結果を出す必要があるため、不測の事態を想定し、3つの実験装置を用いて協力行動の生起について調べた。すでにチンパンジーなどで成功が報じられている、2個体が同時にひもを引くことで報酬の入った容器を手元まで引き寄せられる仕掛けになっている装置を利用した「ひも引き協力課題」ではマーモセットでは個体同士がタイミングよく装置前に座ることは全く観察されなかった。また、「ひも引き」という行動指標は変えずに、2個体の反応にズレが生じても課題解決できる別の装置を用いても、協力するような反応は認められなかった。2個体が同時にレバーを押すことで報酬の入った容器の蓋が開く仕掛けの装置をセットし、協力行動が生起するかビデオ観察をおこなったところ、この課題では2個体による同時レバー押し反応が認められた。「他者との協力が必要である」という課題解決のための条件をマーモセットが理解できていたかどうかについては慎重に考える必要がある。しかし、一連の実験において課題遂行次に2個体の距離が近いと、優位個体が装置を独占する行動が認められたことから、協力できても他者との目的(報酬)を共有することは難しいことが分かった。
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