視覚探索課題において、標的刺激を複数の妨害刺激から検出するときに、課題とは直接関係のない冗長な情報が標的検出を促進することがある(パターン優位性効果)。本年度の課題では、顔や視線の方向といった社会的信号は、それらが向かう先にある物体を含めた一つの場面を「まとまり」として知覚されるのか視覚探索課題を用いて検討した。視覚探索課題では、一般的に画面に表示される刺激数が多くなるほど標的刺激の検出にかかる時間が長くなるという逐次探索によって標的刺激が検出される。一方、パターン優位性効果を生じるような知覚的な「まとまり」が生じる刺激では、課題には直接関係のない文脈情報と標的刺激や妨害刺激が1つの「まとまり」として知覚されることによって、標的刺激がポップアウトし、表示項目数が多くなっても標的刺激が並行探索によって瞬時に検出できることが多い。 最初の実験では、チンパンジーおよびヒトを刺激画像として用い、左右を向いているチンパンジーおよびヒトの視線の先に物体がある標的を検出する場合と、視線とは逆方向に物体がある刺激を検出する場合で反応時間が異なるかを検討した。ヒト成人を対象とした実験を実施した結果、予測されたパターン優位性効果は見られなかった。これは、ヒトが顔や視線の方向とその先にある対象とを一つのまとまりとして知覚していないことを示唆している。今後は、ポズナー課題など、手続きの異なる課題を用いて、現象の再現性を確認したい。
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