研究課題/領域番号 |
25730120
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
豊浦 正広 山梨大学, 総合研究部, 助教 (80550780)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 片眼鏡 / 拡張現実感 / 情報可視化 / 機能代行 / 画像合成 / 顕著性マップ |
研究実績の概要 |
本研究では,片眼失明者に距離を強調した映像を提示する片眼鏡の開発を行う. 片眼失明者は両眼立体視機能がないために,距離感が十分に得られないことがあり,手元の細かい作業などで困難を生じることがある.これに対して我々がこれまでに開発した片眼鏡は,目線に取り付けた2台のカメラで眼前の映像を取り込み,距離情報を1チャンネルの映像の中に埋め込み,装着型ディスプレイに提示する.脳内で行われる両眼立体視機能を2台のカメラと計算機が代行する. 本年度は距離情報をよりよく表現する映像加工方法について検討を進めた.映像全体の加工が必要だったこれまでの焦点ぼけによる映像加工手法に対して,色重畳による映像加工手法を開発し,評価を進めた.従来は映像透過型装着型ディスプレイでしか動作できなかった距離提示が,光学透過型装着型ディスプレイで行うことができるようになり,映像透過型装着型ディスプレイでは画面サイズに制約を受けていた視野角の狭さを解決できるようになった.また,映像合成のためのパラメタを利用者自身が設定できるように,カメラからの指先動作を検出する機能を追加した.さらに,提示映像加工のために利用していたGPUによる高速な焦点ぼけ処理の技術は,拡張現実マーカの一種であるモノスペクトルマーカの検出にも活かすことができ,研究成果を発表することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
色重畳による映像加工手法の開発によって,焦点ぼけを利用していたときのように画素の明度を上下する必要がなくなり,光学透過型装着型ディスプレイによる強調効果提示を実現できることとなった.このことは,当初より課題として挙げていた 1.装着型ディスプレイに制限されていた利用者の観測範囲を片眼視野全体まで広げることについて,解決できたことを意味する.また,2.より明確に距離を表現することについても,ひとつの解を得ることができた. 3. 利用者ごとの最適な映像合成パラメタを自動設定できることについては,眼前の領域を直接指定できるクリックインタフェースの開発によって,手動による設定がひとまずできるようになり,手動による正解の指定ができるようになったことにより自動設定の成否の検証が容易になったと同時に,手動設定によるパラメタ調整機能の一部完成を見ることができた.以上,当初挙げた3課題について,当初想定していたよりも早期に成果を得ることができ,最終年度は提案手法の精度検証と,さらなる手法の改良のために時間を充てることができるようになった. これまでの成果は,電子情報通信学会論文誌,The Visual Computerで原著論文として掲載され,ウェアラブル・エレクトロニクス内の解説記事としても掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
当初の課題として挙げていた,3. 利用者ごとの最適な映像合成パラメタを自動設定できることに取り組む.利用者の視線パターンの解析によって,それぞれの利用者に最適なパラメタを推定する手法の開発に取り組む.視線パターンの解析のためには,コンピュータビジョンの分野で開発された顕著性マップの利用を想定しているが,研究代表者らはこれまでに顕著性マップを改善するための研究にも携わってきており,この成果を一部活用できる. 一方で,研究開始当初に利用を想定していた民生用の光学透過型装着型ディスプレイは米国では一部販売されていたが,日本での販売を開始することなく,開発を一旦中止することとなった.このことは研究の進捗を妨げるとともに,広く一般への片眼鏡装置の普及を妨げる要因となる.研究用に販売されている装置によって研究開発を進めながら,安価な他社製民生品の発売動向に注目しておきたい. また,これまでの研究を通して,視線追跡のための装置が大きくなることが問題として明らかとなってきた.このことを解決するための手法についても開発をすでに始めている.この手法の開発がうまく完成すれば,安価で軽量な装置によって片眼鏡が提供できるようになると見込んでいる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に国際会議へ投稿して発表する計画があり,そのための参加費および旅費が不足することが見込まれたため.
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次年度使用額の使用計画 |
国際会議の参加費および旅費として支出する.
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