最終年度は本科研費プロジェクトにおいて開発を進めてきたデータ同化強化学習法を,化合物・タンパク質の相互作用実験に応用した.化合物・タンパク質相互作用実験とは,ターゲットとなるタンパク質に機能する化学物質のスクリーニングし,薬品の“タネ”を探しだす新薬開発の重要なプロセスである.この実験を実際に実行するには,複数人単位の研究者チームと数週間単位の時間を必要とされるため,創薬におけるボトルネックである.よって,化合物のスクリーニングを効率化することにより,新規開発にかかる費用を削減し,開発速度を飛躍的に向上させることが期待できる. これまで,化合物・タンパク質の相互作用実験を計算機上で模倣するシミュレーションの開発により実験を置き換えることがすすめられてきた.それらの研究成果により,シミュレーション精度は向上したが,精度の良いシミュレーションを行なうためには,「京」のような大規模計算機を数日稼働する必要があり,やはり実験数には限りがある.本研究では,このシミュレーターとデータ同化強化学習を組み合わせて,少ない実験回数で最適な化合物を見つけることに挑戦した.まず既にデータベース化されている化合物・タンパク質の相互作用の結果についてデータ同化強化学習を適用し,その性能を検証した.その結果,対象とした化合物の数パーセントについてシミュレーションを実行するだけでもっともよく機能する最良の化合物を発見することができた.この結果をうけて,データベース化されていない未知のタンパク質に対する最良の化合物を探索する実験に取り組んでいる. 最後に本科研費プロジェクトで得られた成果はソフトウェア,Common Bayesian Optimization LibraryとしてGitHub上(https://github.com/tsudalab/combo)で公開している.
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