1. 前年度より継続して、脳機能計測によって得た機能的結合の変化を定量化するための多変量解析手法の開発を実施した。手法は計測ノードとそれらを部分的にひとまとめにした機能単位(モジュール)の統計的な階層関係を背後に想定し、具体的には行列値主成分分析法に制約を導入したアルゴリズムとして実装された。これにより、高次元データである機能的結合の変動を、不変なモジュールパターンを基底とした低次元のモジュール間結合の変動として捉えることが可能となった。本年度はとくに前年度までの手法の問題点を解決し、1)モジュール間結合とモジュール内結合を同時に扱う、2)3以上の一般のモジュール数への一般化、3)モジュール内での極性(符号)の混在を回避、以上の3点が実現され、より実用的で結果の解釈がしやすい手法へと発展させた。開発や結果の解釈にあたっては共同研究者2名(ヘルシンキ大・オウル大学病院)の協力を得た。また、機能的結合自体のより良い推定のため、本課題以前に開発した時変ネットワーク推定法の応用を検討し、その一部として当該手法の性能検証を実施した。 2. 階層型統計モデルに基づく独立成分分析(ICA)の拡張について、昨年までに得た成果では最上位に離散的な状態変数を想定しており、制約が大きかった。そこで、この制約を緩和し、状態変数を連続量とした新たな階層型統計モデルへと発展させた。通常、連続潜在変数を伴う階層的なモデルでは尤度の取り扱いが難しくなるが、モデリングの工夫によって取り扱いの簡単なモデルが実現されることを信号源が実数値の場合について本課題以前の研究で示しており、本年度はこのアイデアを実用上重要な複素数値信号源の場合へと発展させた。試作した手法はシミュレーションで妥当な結果を示した。
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