昨年度に実施した実験では、影の濃さと空間の明るさの変化が観察できるように、4つの領域に区切られた空間に、反射率の低い物体をそれぞれ設置した。それらの物体の影や各領域にあたる照明の強さを変化させ、影が人の空間の明るさ知覚に及ぼす影響と、空間の明るさ知覚が影の知覚に及ぼす影響について検討した。 当該年度は、昨年度の実験結果の解析の続きと質問紙調査のまとめを実施し、国際学会にて発表を行った。実験前質問紙調査において、私たちが普段、どの程度「影」を意識しているのかを調べるために、視覚刺激として呈示された4つの区間に対して、「目の前に何があるのか」について質問した。その結果、被験者全てにおいて「箱がある」と回答し、影に関する回答は無かった。このことは「影」を意識して見ていない可能性が高いことを示している。実験後質問紙調査において、「普段の生活において、影を意識したことがあるか」について、「どちらでもない」が1人、「意識していない」が5人となった。このことは本実験に参加した被験者は影を意識していない事を示している。実験結果からは影が空間の明るさ知覚に影響を及ぼすことが示されており、影は意識せずに得ている視覚情報の一つであると示唆される。また、実験の際、被験者が課題を判断する為により多く見ていた領域が、影の濃さを判断する実験と空間の明るさ知覚に関する実験では異なることが示された。
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