本研究の目的は、人工遺伝子回路を用いて二種類の大腸菌がお互いを助け合う相利共生系を構築してその挙動を解析することで、共生システムの実現に必要な条件をみつけることである。このために、次の条件を満たした人工遺伝子回路を大腸菌に導入した。1)二種類の大腸菌AとBは異なる細胞間コミュニケーション分子を生産する。2)大腸菌AとBの細胞内では、相手が生産するコミュニケーション分子を感知して、抗生物質耐性遺伝子の発現が誘導される。この人工遺伝子回路の働きにより、大腸菌AとBがお互いが存在するときのみ生存が可能となる共生システムが形成される。 これまでに研究代表者は、作製した人工遺伝子回路を導入した二種類の大腸菌を共培養することで、両方の増殖率が上がることを確認していた。ただし、このシステムでは抗生物質耐性遺伝子の発現のリークにより、相手の細胞がいなくてもわずかに増殖が起きてしまうという問題があった。そこで本年度は、人工遺伝子回路のネットワーク構造や遺伝子部品を変えるといった微調整を行うことで、システムの改良を行った。ネットワーク構造の変更により、細胞間コミュニケーション分子の生産を相手が生産する分子に応答して生産する形式から、常時生産する形式に変えた。また遺伝子部品を交換することで、抗生物質耐性タンパク質の分解レートを変えるという微調整を行った。これらの改良の結果、人工遺伝子回路が導入された大腸菌の単独での増殖を抑制することに成功した。さらに共生システムの形成に有用な環境条件の制御のため、微小環境内での細菌の連続培養が可能なマイクロ流体デバイスの開発を行った。
|