本研究の目的は、散乱太陽光(天空光)の散乱角依存性(輝度分布)および波長依存性を同時に測定できるハイパースペクトルカメラ(HSカメラ)を用い、おもに対流圏に存在するエアロゾルの物理・光学特性を従来より高い信頼度で測定する手法を開発することである。 平成25年度は装置校正および解析手法の開発を行った。平成26年度はHSカメラをコンピュータ制御可能な経緯台に搭載して全天を自動観測できるシステムを構築した。また、カメラレンズを非球面アクロマティックレンズ、フィルターホィール、及びバッフル筒で構成される入射光学系に置き換えることで、内面反射に由来する迷光および回折格子の2次光の影響を抑制できるように改善した。さらに、球形・非球形エアロゾルの光学パラメータを粒径ごとにあらかじめ計算して作成したルックアップテーブルを利用することにより、解析プログラムの高速化を行った。 エアロゾルの光学特性は粒径に大きく依存するが、粒径の違いは前方散乱、すなわち太陽周辺の天空光(オリオール)に顕著に見られる。従来の装置(スカイラジオメータ―)では最小散乱角3度、角度分解能1度程度の観測しかできなかったが、HSカメラを用いた観測により、最小散乱角1度、角度分解能0.1度の精度でオリオールの輝度分布を測定することに成功した。このような太陽近傍の詳細観測により、大粒径エアロゾル粒子の濃度が正確に分かるようになった。 エアロゾル計測にHSカメラを使う利点には上に挙げたオリオールの詳細観測以外にも、広い範囲を効率よく観測できる、空間分解能が細かいために点広がり関数の影響を考慮しないで済むといったことが挙げられる。また、解析の誤差要因となる雲を画像解析の手法で除去できるメリットも大きい。逆に雲そのものを観測対象とすることもでき、HSカメラとライダーの同時観測により雲の物理・光学特性を導出する手法の開発にも取り組んでいる。
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