地球温暖化問題を背景に土壌炭素の分解規定因子の解明が課題となっている。現在は現存している土壌炭素の質によって分解反応は規定されるという考えがコンセンサスを得ているが、近年それを覆す規定因子(グルコースやセルロースによるプライミング効果)が報告され話題となった。ただし、プライミング効果による土壌炭素分解が多様な質に関係なく普遍的に生じるかは不明であり、他の規定因子との関係も曖昧である。本研究は土壌炭素の質が大きく異なる複数の試料に対し、プライミング効果による分解反応の有無を定量的に評価することを主目的としている。本年度は昨年度明らかにした化学構造特性や存在形態(比重)の異なる黒色土、褐色土、赤黄色土を用いてプライミング効果実験(培養法)を試みた。その結果、以下のことが明らかとなった。(1)表層0-10cmの土壌ではすべての土壌でプライミング効果が生じることが確認され、その程度は赤黄色土<褐色土<黒色土の順に高いことが明らかとなった。(2)下層60-70cmの土壌では褐色土ではプライミング効果が認められなかったが、黒色土および赤黄色土では認められた。その程度は黒色土<赤黄色土の順に高かった。(3)表層土と下層土を比較すると赤黄色土のみ下層土でのプライミング効果の程度が高いことが示された。さらに、各土壌炭素の質的特性(化学構造特性および比重)とプライミング効果の関係について解析した結果、表層の土壌炭素では化学構造特性との間に有意な相関関係は認められなかったが、比重1.6g cm-3以下の軽比重の土壌炭素(主に易分解性有機物)が多いほどプライミング効果が生じ難い関係が見出された。下層土では土壌炭素の質的特性とプライミング効果の間に有意な関係は認められなかった。
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