本研究では,コユビミドリイシ(枝サンゴの一種)のサンゴの稚ポリプを用いた生物試験を実施し,サンゴの石灰化に各種の栄養塩が及ぼす影響について検証した。その結果,サンゴのポリプの初期の骨格形成の阻害は,硝酸塩に比べリン酸塩の影響が非常に大きいことや,農業活動に使用される各種形態のリン酸塩がサンゴの稚ポリプの石灰化を大きく阻害することを明らかにした。さらに,その阻害メカニズムは,リン酸塩がサンゴ稚ポリプの骨格表面に素早く吸着し、炭酸カルシウム骨格の結晶成長を妨げるためであることを明らかにしている。地下水や海底湧水中に含まれるリン酸塩は,サンゴの稚ポリプの石灰化を阻害する濃度に達している場合もあり,海域に流出すると,より高いpHの影響で直ちに懸濁体粒子や底泥に吸着し除かれていることが推定できる。大部分のリン酸塩は脱着を繰り返すため、海底に着底するサンゴ稚ポリプに与える悪影響が懸念される。海域での栄養塩調査は、主に溶存態の窒素やリンを対象にしている。しかし,海域へ流出し海底に蓄積されたリン酸塩の実態は明らかになっていないため今後詳細に調査していく予定である。
|