研究課題/領域番号 |
25740008
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
足立 光司 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 研究官 (90630814)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | エアロゾル / 電子顕微鏡 / 有機物質 / 混合状態 |
研究概要 |
本研究は地球気候に大きな影響を持ち、その性質が謎に包まれた大気中の有機エアロゾルのナノスケール特性を明らかにして、その気候影響を理解することを目的として実施した。試料採取は予定通りに行い、バイオマス燃焼エアロゾル(アメリカ)とブラジル・アマゾン域における有機エアロゾルの試料採取に成功した。加えて、中国大陸における2014年2-3月にかけてのエアロゾル試料も採取した。それぞれの試料において透過型電子顕微鏡を用いた分析を行い、そのエイジング過程、気象・発生条件によるエアロゾル粒子の混合状態の変化などを明らかにした。具体的には、バイオマス燃焼から生じる有機エアロゾルは30分から数時間のエイジングスピードによってその粘性を上げていき、ターボールと呼ばれる球状有機エアロゾルに変化していく過程が明らかとなり、また高分解能電子線エネルギー損失分光スペクトルを得ることに成功した。アマゾン域におけるおもに植物から発生した有機エアロゾルは、多量のカリウムを含有し、また硫酸カリウムなどと内部混合してエアロゾル化していることが明らかとなった。加えて、チャンバー実験によって人工的に光化学反応を進ませた有機エアロゾルの分析も行い、従来の予想よりも有機エアロゾルが粘性の低い状態であり、かつ1週間程度でその粘性があがることを明らかにした。さらに、東京で観測を行ったエアロゾル粒子の解析を進めていくことで、有機エアロゾルなどがすす粒子と内部混合していく条件に気象条件が大きくかかわっていることが明らかとなった。このように、世界各地で採取されたエアロゾル粒子の特に有機成分に着目して電子顕微鏡解析を行い、さまざまな発生源から生じた有機エアロゾルの大気挙動に関する新たな知見が多く得られた。これらの結果は有機エアロゾルの多様性を示すものであり、その気候に対する複雑な影響を及ぼしていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画・目標はおおむね順調に進展しており、研究実績の概要に示した通りの成果があった。特に本研究では有機エアロゾルに着目した電子顕微鏡分析を主な目標としているが、1)都市大気中(東京・北京)、2)越境大気中(東シナ海)、3)雲中(東北上空)、4)バイオマス燃焼煙中(アメリカ北西部)、5)アマゾン森林域中、6)山岳大気中(中央アルプス)、7)チャンバー室内実験、からそれぞれ有機エアロゾルの分析を行った。これらの様々な環境から得られた有機エアロゾルを分析することで、それらが地球気候に与える影響を多角的に考察することが可能となる。これらの試料の分析が現在も続いており、興味深い結果が得られつつある。一方、サンプラの改良を25年度の目標にしていたが、サンプラが世界各地(アメリカ、ブラジル、中国、日本)の試料採取に使われたため、物理的に改良の時間が得られなかったが、その点は26年度に行う予定である。また、個別粒子分析から有機エアロゾルのエイジングを考察する実験においては、試料の全体像を把握する分析を優先させるためにやや遅れが生じているが、この点に関しても予想以上に科学的に重要な試料が多く採取されたためであり、最終的な研究成果には影響しない。なお、25年度については8本の学術論文を出版することができた(内5本が足立主著)。
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今後の研究の推進方策 |
26年度も引き続き試料の採取と分析を進める予定である。具体的には、1)東京都での集中観測(7-8月)、2)ブラジルでの観測(8-10月)、3)気象研およびアリゾナ州立大学での電子顕微鏡分析、など可能な限り多くの機会を生かした試料採取・分析を進める。26年度は25年度に実施できなかったサンプラの改良を行い、より時間分解能の高いエアロゾルサンプラの作成を行う予定である。また、これまでに得られた試料のいくつかにおいて、詳細な個別粒子解析を行って酸化度合いや化学組成、粘性変化などを大気エイジングプロセスと合わせて解析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
以下のとおり、1年度目の研究経費を当初計画より節約することができた。1)ワークステーションを当初の予定より安く購入した。2)購入予定であった設備備品を他の研究経費で購入したもので代用した。3)サンプラの改良を次年度に行うこととし、25年度はサンプリングに集中した。4)沖縄での試料採取を中止し、海外での観測キャンペーンで得られた試料分析に集中した。5)海外出張を他の研究経費と合わせて行った。 使用計画は、1)1年目で行う予定であったサンプラの改良を2年目で行う、2)ブラジルでのサンプリングに参加する機会を得たので、その試料採取経費に用いる、3)1年目のサンプリングで得たデータを議論するために、関係する研究者が参加する学会で発表する。
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