大気エアロゾルに含まれている多環芳香族炭化水素類(PAHs)は、エアロゾルの発がん性に関与していると推察されるが、大気中での分解性や輸送挙動はよく分かっていない。一方、土壌や水圏では腐植物質とPAHsとの相互作用に関する研究例は多く、PAHsの挙動に腐植物質が関与している可能性が示唆されている。大気エアロゾル中にも腐植物質と一部類似した化学構造特性をもつ腐植様物質が含まれており、腐植様物質とPAHsが相互作用している可能性がある。そこで、本研究では腐植様物質とPAHsの関連性を明らかにして、大気中PAHsの挙動解明に繋げることを目的にした。 今年度は、前年度までに製作した実験チャンバーを改良し、腐植様物質粒子へのPAHsの収着能について調査した。チャンバーに腐植様物質粒子とPAHsを導入し、チャンバー排気中のそれらの濃度を粒子径別に測定した。その結果、5環以上のPAHsの粒径分布は腐植様物質の粒径分布と類似しており、これらのPAHsが腐植様物質粒子に収着していると推測された。また、粒子にPAHsが収着していると仮定すると、腐植様物質粒子1 gあたりのBenzo[b]fluorantheneとBenzo[a]pyreneはそれぞれ0.065 mgと0.080 mgであり、対照として用いたNaCl粒子1 gあたりの重量よりも3倍程度大きかった。この結果から、一部のPAHsはNaCl粒子よりも腐植様物質粒子と相互作用しやすいことが示唆された。 本研究により、土壌や水圏の腐植物質のように、大気中の腐植様物質もPAHsと相互作用することが示唆された。構築した実験システムを利用してより詳細な実験を行うことで大気中PAHsの挙動解明に寄与できると考えられた。
|