研究課題
若手研究(B)
ヌクレアーゼはDNA切断酵素の総称である。放射線治療においては、DNAに傷をつけることで、複製盛んな細胞に対して細胞死を誘導しているが、DNAに傷がついた際に、DNAの断端の修飾(ゴミのようなもの)を除去するのもヌクレアーゼである。そういったヌクレアーゼ機能を抑制することができれば、DNAの傷が修復されにくく、細胞はより死にやすくなると考えられる。 私は、放射線照射後のDNA断端修復に関わるヌクレアーゼの特定や、機能解析を行う目的で研究費申請を行った。研究の過程で、新規抗がん剤であるPARP阻害剤も、DNAの断片にゴミ(この場合PARP:核内に豊富に存在する、DNA修復に関わるタンパク質)をつけることで、細胞死を誘導する事を発見し、2012年Cancer Researchに報告した。その後の研究で、新規PARP阻害剤(BMN 673)が現存するPARP阻害剤の中で、最もDNA断端にPARPを強固に結合させることを発見し、論文発表した。またこれらの発見を元に、PARP阻害剤と他剤併用療法における、合理的な組み合わせについて論文発表した。現在、DNA断端修飾除去にかかわるヌクレアーゼとして、一つが有力な候補を特定し、放射線やPARP阻害剤の抗がん作用に寄与するかを研究している。
1: 当初の計画以上に進展している
DNA断端の修飾を修復するヌクレアーゼの特定であるが、主に抗がん剤PARP阻害剤によって生じる、DNA-PARP複合体の除去にかかわるヌクレアーゼに絞って研究を行っている。アメリカで治験中のPARP阻害剤5種類すべてがDNA-PARP複合体を形成する訳ではない。私は、より強固にDNA-PARP複合体を形成するPARP阻害剤、BMN 673を特定し論文発表した。ヌクレアーゼを欠損させた複数のDT40細胞をもちいて、DNA-PARP複合体を形成しないPAPR阻害剤VS形成するPARP阻害剤への感受性(死にやすさ)を比較する事で、欠失しているヌクレアーゼのDNA-PARP複合体除去への貢献度を明らかにできた。現在候補を一つにしぼっており、今後このヌクレアーゼが実際どのようにDNA-PARP複合体除去に働くかを、生化学的、生物学的手法を併せて検討する。このヌクレアーゼが放射線によるDNA断端修復にも寄与するかも検討する。申請内容とは少し外れるが、PARP阻害剤のDNA-PARP複合体形成能力にもとづいて、合理的な他剤併用療法について研究し、論文発表した。このように、PARP阻害剤や放射線の抗がん作用に寄与する因子について研究成果がでている。
現在特定できているヌクレアーゼは、既知のものであるが、DNA-PARP複合体除去や放射線によるDNA断端修復に関わるかは明らかになっていない。今後このヌクレアーゼが実際どのようにDNA-PARP複合体除去に働くかを、生化学的、生物学的手法を併せて検討する。ガン細胞の大規模データが利用可能なので、このヌクレアーゼや他の候補ヌクレアーゼについて、抗がん剤感受性への寄与度を検討したい。また、ゲノム編集ができる時代になっているので、このヌクレアーゼや他の候補ヌクレアーゼについて、ノックアウト細胞を作成し、抗がん剤感受性への寄与度を検討したい。PARP阻害剤は日本ではまだ無名なものの、アメリカではフェーズ3まで進んでいる抗がん剤である。将来的に日本にも導入される可能性は高いので、日本のがん研究のため、PAPR阻害剤の作用メカニズム、特に耐性メカニズムについて研究を進めていきたい。
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