研究課題
本研究は、放射線を受けた組織中において、がんの標的と考えられる組織幹細胞に着目し、放射線により傷ついた幹細胞が組織から排除されるか蓄積されるかを明らかにするため、放射線応答動態の指標として様々な状態の幹細胞におけるDNA損傷修復動態や、増殖活性を評価することを目的としている。計画では、組織のin situでのDNA損傷修復を評価する予定であったが、組織切片では組織構造が緻密であり個々の細胞構造が明確に観察しにくいため、組織ホールマウント染色による観察する手法を試みてきた。また、本年度は、細胞一個レベルでのDNA損傷を定量的に評価するために、フローサイトメーターを用いた細胞の分離についても検討した。本研究においてLgr5陽性幹細胞はEGFPの発現レベルによって区別できる動物を用いているため、フローサイトメーターを用いることで、Lgr5陽性幹細胞のDNA損傷レベルを評価することが可能になる。しかし、放射線照射によってEGFPを発現するLgr5陽性幹細胞が増減する可能性があったため、放射線照射後の幹細胞の存在比を明らかにした。タモキシフェン投与によってLgr5陽性幹細胞でのみCre/loxP組換えが起こるマウスを用いて、タモキシフェン投与直後に組換えが起こる細胞集団を調べると、EGFPを高発現する細胞であることが分かった。そこで、マウスに1 Gyの高線量率X線を急性照射して6, 24, 48時間後にEGFPを高発現する集団の割合を十二指腸と大腸とで比較したところ、十二指腸では細胞集団が照射24時間で減少したが、照射48時間後でプールの回復が認められた。一方、大腸では、照射後48時間が経過しても集団が減少したままであった。この知見は、当所がこれまでに得ていた大腸のLgr5陽性幹細胞の放射線高感受性と相関しており、これが幹細胞プール補充の引き金になる可能性があり、損傷の蓄積性と関係する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
DNA二本鎖切断修復タンパクである53BP1分子の局在を指標として、組織レベルのDNA損傷修復を評価することができ、放射線照射後の傷が時間と共に速やかに修復される様子が観察された。フローサイトメーターを用いた幹細胞の分画も可能となったため、今後は、幹細胞分画ごとのDNA損傷修復動態を明らかにすることができる。
これまでは蛍光タンパクによる観察が可能であったLgr5陽性幹細胞を中心に評価してきたが、幹細胞の放射線照射後の動態を理解するためには、放射線抵抗性の上位幹細胞におけるDNA損傷を評価する必要がある。しかしながら、これらは存在比が限りなく小さく、組織レベルの解析では定量的な評価が困難であると考えられた。そこで、個々の細胞の遺伝子発現をin situ hybridizationさせつつ、フローサイトメトリーで大量に解析する技術を用いて、さまざまな幹細胞マーカーにおいてDNA損傷修復が検出できるか、それらが蓄積するか排除されるのかを明らかにする研究を進める。
消耗品の購入が一部にとどまったことと、成果発表のための旅費を使用していないために次年度使用額が発生した。
最終年度には解析に必要な消耗品の購入や成果発表のための旅費に使用することで、計画通りに研究を実行する予定である。
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Journal of Radiation Research
Carcinogenesis