本研究は、放射線を受けた組織中において、がんの標的と考えられる組織幹細胞に着目し、放射線により傷ついた幹細胞が組織から排除されるか蓄積されるかを明らかにするため、放射線応答動態の指標として様々な状態の幹細胞におけるDNA損傷修復動態や、EdUやリン酸化ヒストンH3などをマーカーに増殖動態を評価してきた。当初は、組織のin situでのDNA損傷修復を評価する予定であったが、組織切片では組織構造が緻密であり個々の細胞構造が明確に観察しにくいため、組織ホールマウント染色による観察法やフローサイトメーターを用いた細胞の解析を進めた。本研究では、Lgr5陽性幹細胞におけるDNA損傷レベルを定量的に評価するために、二本鎖切断のマーカーであるγH2AXを蛍光標識することで、そのLgr5幹細胞における蛍光強度を定量することが可能になった。蛍光強度が高い分画について、ソーティングした細胞を画像解析したところ、実際にDNA二本鎖切断部位にフォーカスが形成されていることを確認できた。また、DNA損傷修復タンパクや細胞動態を評価する際の多重免疫組織化学染色で同時に使える抗体が限られている問題があったが、チラミドによる染色により、組織中のDNA損傷修復を細胞動態と同時に評価することが可能になった。このようなさまざまな実験系の確立をもとに、さまざまな線量を照射した場合の幹細胞におけるDNA損傷修復および細胞動態について得られた成果をまとめた。
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