研究課題
若手研究(B)
本研究では継続的に行なっている放射線汚染地域における野生生物の放射線影響評価を行なうことを目的としている。2013年度は、継続的に行っている春と秋の動物調査および保管している齢査定用、染色体解析用、ミトコンドリア DNA 解析用の標本の解析を行った。まず、放射性物質の汚染による野生動物の影響を評価するために2011年秋期から2012年春期にかけての福島県内4地点、および対照として青森県2地点のアカネズミの個体群年齢構成並びに個体成長の調査を行なった。2011年秋期では福島県の警戒区域内においてアカネズミの春誕生個体数が減少の可能性が示唆されたが、2012年春期においても齢カテゴリーwV、VI(2011年1~10月出生)の個体が青森県に比べ福島県では有意に少なかった。いずれの場合も福島第一原子力発電所事故発生時期に出生した個体が少ないという結果を得た。本研究における放射性物質汚染と個体数変動の関係は定かではないが、今後も引き続き個体群調査を行っていく必要がある。染色体解析においては、2011年秋期に捕獲した福島産アカネズミでは放射線の影響で特異的に観察される二動原体(Dic)染色体は検出されなかったが、gapやbreakなどの染色体異常が観察された。しかし、対象地域である青森産と染色体異常頻度に有意な差はなく、調査地域間の詳細な比較および観察細胞数の加増が必要である。2012年の春期に捕獲した個体9個体および対象地域である青森県から8個体に対して、肝臓のミトコンドリアDNA cytb遺伝子配列の塩基置換率を指標とした解析を行った。1個体当たり57150bpのcytb 遺伝子における塩基置換率を算出したところ、福島個体群、青森個体群間に有意な差は認められなかった。しかし、福島個体群において推定日齢と塩基置換率でかなりの相関が見られた。
2: おおむね順調に進展している
これまで捕獲した個体の染色体標本は細胞分裂の頻度が低いために解析が困難であった。そのため、染色体解析に関しては遅れがでている。しかし、培養に用いる試薬の見直しをしたところ、分裂頻度に大幅な改善が見られた。以上のことから平成26年度の染色体解析を遂行する見通しが立てられた。アカネズミの齢査定およびミトコンドリア DNA の解析については概ね順調に進んでいる。また、アカネズミの内部被ばくの線量測定に関して適切な臓器の探索を行ったところ,歯が妥当であるとの結論に至った.
引き続き小哺乳類の捕獲、標本作製、ミトコンドリア DNA の解析を行う。26年度は解析が遅れていた染色体の解析を進める。さらにアカネズミの生物学的線量評価用プローブの開発を試みる。これまで染色体標本の分裂頻度が低かったため、染色体 DNA を回収することが困難であった。今回分裂頻度の改善が見られたので、多くの染色体 DNA を回収することが期待できる。また、アカネズミの内部被ばくの線量は歯を用いて測定する.
これまで捕獲した個体の染色体標本は細胞分裂の頻度が低いために染色体解析が困難であった.そのため,染色体解析にあてる費用が減少したことにより次年度使用額が生じてしまった.引き続き今年度と同様の研究計画で予算を執行する予定である.しかしながら,染色体解析における分裂頻度の問題が解消されたため,次年度は染色体解析費用としての物品費が若干増加する予定である.
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件)
Radiation Emergency Medicine
巻: 2 ページ: 63-67
Scientific Reports
巻: 3 ページ: 2283
10.1038/srep02283
Toxicology and Applied Pharmacology
巻: 267 ページ: 266-25
10.1016/j.taap.2012.12.024
巻: 2 ページ: 82-86