研究課題
放射線は生物に対して様々な生物影響を引き起こすことが知られているが、長期的な被ばくの影響が動物個体および個体群に対してどのような影響を与えるのかは不明である。放射性物質汚染地域に生息している野生生物への放射線影響を調査することは生態系に対する影響評価や環境保全にとって極めて重要であり、ヒトへの影響の未然防止、リスク管理や生活環境の改善へと繋がる。本研究では継続的に行なっている放射線汚染地域における野生生物の放射線影響評価を行なうことを目的としている。2014年度において、福島県の放射線汚染地域の除染活動のためアカネズミの捕獲場所の変更を余儀なくされたため、2015年度では新たに捕獲場所を設定しアカネズミの捕獲を行うことができた。そのため2015年度も引き続き、アカネズミの採集、染色体標本の作成および放射線影響解析用の臓器の採材を行った。放射線の遺伝的影響を調べるためにアカネズミの脾臓に含まれるリンパ球を対象として染色体異常を解析した。その結果福島県および対象地域である青森県で捕獲されたアカネズミの両者において、染色体の部分切断等が観察された。しかしながら、放射線特異的な染色体異常は検出されなかった。2011年秋から2013年度までの福島集団の染色体異常頻度の推移は年々減少傾向にあると考えられる。アカネズミの捕獲場所の空間線量率および土壌の放射線および捕獲地点に生息するアカネズミの個体被ばく線量を測定した。2011年秋の空間線量率から比較し、汚染地域の空間線量率は徐々に減少していたが、新たに設定した捕獲場所は、依然として高い線量率であった。アカネズミの個体被ばく線量は、空間線量率および土壌表面線量率に対して線量率依存的に増加していた。個体被ばく線量が環境放射線量よりも低い原因を明らかにするために、土壌中の線量測定を行った。
2: おおむね順調に進展している
放射性物質汚染地域に生息している野生動物は空間線量率が低下したとしても長期的な被ばくを受けるのは明らかである。2014年度において、福島県の放射線汚染地域の除染活動のためアカネズミの捕獲場所の変更を余儀なくされたため、2015年度では新たに捕獲場所を設定した。2011年秋の空間線量率から比較し、汚染地域の空間線量率は徐々に減少していたが、新たに設定した捕獲場所は、依然として高い線量率であった。そこで、空間線量率の異なる地域にて捕獲したアカネズミに蛍光ガラス線量計(PLD)を留置して放逐し、1 週間後に再捕獲を行うことで、アカネズミの個体被ばく線量の測定を試みた。アカネズミの被ばく線量は、空間線量率および土壌表面線量率に対して線量率依存的に増加していた。ただし、被ばく線量は、いずれの地点においても空間線量率や土壌表面における吸収線量を下回っていた。そこで、この低下の原因を明らかにするために、PLDを土壌の鉛直方向に埋設し、その吸収線量を測定した。その結果、吸収線量は深さ10cm地点で、地表の約半分となっており、そこから急激に減少していた。被ばく線量の値を鉛直方向の減弱に当てはめて考えると、アカネズミの巣穴の深さはおおよそ地下10cm程度と予測された。このことは、アカネズミが常に地表を動き回っているだけでなく、巣穴を掘って生活していることによると考えられる。放射線の遺伝的影響を調べるためにアカネズミの染色体異常を解析したところ、福島県および対象地域である青森県で捕獲されたアカネズミの両者において、染色体の部分切断等が観察された。しかしながら、放射線特異的な染色体異常は検出されなかった。そのため詳細に異常を検出するために、アカネズミの生物学的線量評価用ペインティングプローブおよび動原体特異的なプローブの開発することも重要な課題となる。
継続的に行っているアカネズミの捕獲、標本作製、個体群調査、ミトコンドリア DNA、染色体、被ばく線量の解析を行う。放射線汚染地域に生息しているアカネズミは長期的な慢性被ばくを受けているのは明らかであるが、現在のところ放射線特異的な染色体異常は検出されていない。現在ギムザ染色による染色体異常解析を行っているが、より感度の良いFISH法を適用してより詳細な染色体異常解析を行う必要がある。現在、染色体特異的ペインティングプローブおよび動原体配列特異的プローブの開発を検討している。2015年度で対象染色体の回収法の改善が見られたので、対象染色体からのDNA抽出法を検討中である。また、動原体配列を単離するために、反復配列の探索を行う。
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Journal of Biological Regulators & Homeostatic Agents
巻: 29 ページ: 589-600