本研究は,抗生物質流出による水圏生態系機能低下リスクを定量的に把握することを目的とした.抗生物質が細菌群集活性に与える影響,抗生物質の種類および濃度変化に対する細菌群集の応答を解析する.本研究のゴールとして,水圏生態系の健全性を維持する管理指針の提言を目指した.具体的には,抗生物質流出による水圏生態系へのリスク「抗生物質による腐食食物網の機能低下」を定量的に把握することを目指す.実際には,「腐食食物網の生態系機能の低下」を「腐食食物網を介した有機物転送量の低下」として捉えて,次の2つの作業仮説の検証を微生物生態学的手法を適用し実施した.作業仮説:日本沿岸環境において現在報告されている抗生物質種および抗生物質濃度(pptからppb濃度レベル)に暴露された際,1)環境細菌群集の有機物分解活性と呼吸活性は低下し,その生物量が減る.2)環境細菌生物量の低下にともない,細菌捕食者への有機物転送量が低下する. 検証の結果,自然海水を用いた培養実験では,抗生物質の添加によって細菌増殖速度の低下,細菌群集構造の変化が起きることを明らかにした.また,昨年度に確立した,抗生物質添加に対応して起こる細菌群集の代謝多様性の変化および呼吸量の変化を定量化する微小生態系実験を用いた実験の結果,抗生物質の添加は,細菌群集組成の違いにかかわらず,細菌群集の増殖率,呼吸量および有機物利用速度の低下を引き起こし,さらに,有機物の利用パターンにも変化がおきることが明らかになった. 本研究では,様々な環境応答に対する細菌群集の応答を定量化できる汎用的な微小生態系実験系を確立し,抗生物質流出による水圏生態系機能低下リスクを定量的に把握することが可能になった。.
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