本研究課題は持続可能な産業活動の実現に向けて、製品サプライチェーンを通した戦略的な化学物質リスク管理手法の構築を目的とする。具体的な研究対象として、日本において環境中への化学物質の大きな排出源であるにもかかわらず知識やリソースの不足により化学物質の管理体制が不十分な中小企業に着目し、中小企業で稼働する製品製造プロセスにおける化学物質リスク管理のためのツール開発を行う。平成27年度は、工業塗装プロセスをケーススタディとした検討を行った。塗装は産業部門における揮発性有機化合物(VOC)の最大排出源であり、塗料やシンナー由来のVOC排出量の削減が求められている。工業塗装は塗料の吹き付け、常温乾燥、高温乾燥の3種類の工程からなり、これまで吹き付け工程における改善の取り組みが多く行われてきた。一方、後に続く乾燥工程からの排出量把握や3種の工程全体を対象とした環境・健康影響評価は十分に行われていなかった。平成26年度に常温乾燥工程を対象としたVOC排出量推算のためのプロセスモデルの構築に着手し、平成27年度はモデル構築に必要なデータ収集のための実験を引き続き行った。試験片を用い、塗料の希釈率やシンナーの種類、塗膜厚み、乾燥時間といった主要パラメタと乾燥時のVOC排出速度を測定した。別途被塗物表面近傍における溶剤のマス・ヒートバランスの理論モデルを作成し、実験で得られたデータと組み合わせることで排出量推算モデルを作成した。構築したモデルを用い、ライフサイクルアセスメント(LCA)手法によってVOCによる光化学オキシダント生成影響、地球温暖化影響等の地球規模の環境影響の評価を行った他、塗装作業にかかわる作業者への溶剤暴露による健康リスクの評価を行った。
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