研究課題/領域番号 |
25740062
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
西村 武司 滋賀大学, 環境総合研究センター, 特任講師 (80574029)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 外来生物法 / 特定外来生物 / 外来種 / 防除 / 市民参加 / オオバナミズキンバイ / セイヨウオオマルハナバチ |
研究実績の概要 |
まず,滋賀県のNPO法人会員を対象にアンケート調査を実施し,外来種の防除と在来種の保護に関する人々の意識に影響を及ぼす要因について検討した。分析の結果,外来種防除と在来種保護に関する意識には,年齢や生物多様性に関する知識だけでなく,幼少期の体験や生物の生息地と居住地との距離が関係している可能性が示唆された。ただし,年齢や幼少期の体験による意識への影響が確認できたのは一部の分類群についてのみであり,今後,対象とする生物種や分類群を増やした調査が必要である。 続いて,同一の調査結果を用いて,琵琶湖周辺の侵略的外来種であるオオバナミズキンバイの防除活動への市民ボランティアの参加要因について検討した。分析の結果,一般的かつ抽象的な概念である生物多様性に関する知識ではなく,防除対象となる外来種に関する知識,外来種の完全防除を目標にしているか否か,日常的な環境保全活動を実施する程度,そして,移動手段として自動車を使わない人にとっての防除活動の実施場所までの移動距離が,防除活動への参加の意思決定に影響を及ぼすことを明らかにした。 さらに,セイヨウオオマルハナバチの利用規制の決定過程において,北海道のトマト生産者が採った行動の解釈を行った。本事例では,トマト生産者が自発的にセイヨウオオマルハナバチの拡散防止措置に取り組むことによって,政府が本種の使用を条件付きで許可する可能性を高めたり,使用禁止を求める生態学者の主張を弱めることが期待できた。そして,これらを通じて,トマト生産者は自らの利得を改善できる状況にあったため,自発的に本種の拡散防止措置に取り組む誘因を持ったことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,昨年度までに実施した北海道のトマト生産者および滋賀県のNPO法人会員を対象としたアンケート調査結果を整理し,分析を行った。とくに,琵琶湖周辺の侵略的外来種であるオオバナミズキンバイの防除活動に関する取り組みについて,先行研究が存在しない状況下で慎重に事実関係を整理した。この間,外来生物法の施行令の改定により,ルドウィギア・グランディフロラが特定外来生物に指定され,オオバナミズキンバイが外来生物法に基づく防除対象となった。このため,規制対象とされていない外来種の防除活動に注目した本研究の新規性が若干薄れた一方,市民活動の高まりが法的規制に影響を及ぼす事例が観察できたことにより,今後の外来種対策に関する貴重な史実を得ることができた。 また,セイヨウオオマルハナバチの規制に関するデータを幅広く収集するため,トマト生産量が日本一多い熊本県の農協およびトマト生産者等を対象にヒアリング調査を実施し,アンケート調査を実施するための準備を整えた。 以上のことから,本年度の研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度から引き続き,熊本県のトマト生産者を対象としたセイヨウオオマルハナバチに関するアンケート調査を実施する。得られた調査結果をもとに分析を行い,特定外来生物の逃亡防止に関する実態を詳細に把握するとともに,セイヨウオオマルハナバチに関するトマト生産者の意識および行動に影響を及ぼす要因について検討する。また,本調査によって得られた結果を,これまで実施してきた北海道および愛知県の結果と比較することにより,地域固有の特徴の有無について検討する。 以上を中心に,外来種の利用者の意識および行動に関する新たな知見を得,特定外来生物の逃亡防止および防除に必要な費用負担に関する検討材料を蓄積する。
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